乗組員(クルーメイト)の素性
「い、いま、なんて言いました!?」
光弾の飛び交う中でボクは、ギムレットさんに問い直す。
「オイオイ、戦闘中だぜ」
「解ってます。でも今、プリズナーって!?」
銃撃戦に集中しながらも、質問の答えを諦められないでいた。
「なんだい。プリズナーって名前に、聞き覚えでもあるのか?」
「は、はい。そうです!」
「ヤレヤレ……少しの間、目を閉じていな」
黒人の大男は、身体の1部のパーツを取り外して、バリケードに向って投げる。
パーツが下降曲線を描き始めたのを見計らって、銃で狙撃した。
「うわッ!」
咄嗟すぎて、目が閉じれない。
パーツは爆弾のように破裂し、爆炎を被ったアーキテクターたちが、炎を纏いながらバリケードの向こうから炙(あぶ)り出される。
ボクたちは、それらをすべて撃破した。
「パーツを外して、大丈夫なんですか?」
「ただのエネルギーパックだ。今日中に補充できれば、問題ない」
「出来なかったら、どうなるんですか?」
「死ぬだけさ……」
ギムレットさんは、いとも簡単に答える。
「それよりアンタ、プリズナーの野郎を知っているのか?」
質問責めにされるのに嫌気が刺したのか、間髪入れずに質問された。
「ギムレットさんの言ってる人と同じかは解りませんが、ボクの艦の乗組員(クルーメイト)なんです」
「へえ。アンタ、艦長だったのかい?」
「あまり詳しくは言えませんが、そうです」
バリケードを突破し、女性囚人棟にいよいよ進入する。
「アンタんトコのプリズナーってのは、アークテクターの相棒は居るのか?」
「居ますね。トゥランって、名前です」
「ヤレヤレ、なんてこった。太陽系ってヤツも、案外狭いのかも知れねえな」
「やはり、ウチのプリズナーは……?」
「ああ。オレが昔脱獄させてやった、冷凍睡眠者(コールドスリーパー)だぜ」
横を走る男は、突如としてとんでもないコトを口走った。
「プ、プリズナーは、冷凍睡眠者だったんですか!?」
「アンタ、自分の艦の乗組員の素性も知らねェのか……オッと、新手だぜ?」
通路の十字路に、アークテクターの大部隊が現れる。
何体かを撃ち抜いた後、左右の壁に隠れた。
「隠れられる壁があったのは幸運だが、こりゃマズイぜ」
「同志討ちは……」
「間に合わねェ。来るぜ!」
年季の入ったアーキテクターたちの立てるガシャガシャと滑稽な足音は、ボクたちが隠れている壁のへこみに向って近づいてくる。
「ゲーのヤツが、本格的に指揮を執り始めたのかもな」
「ど、どうします?」
「また質問かよ。撃て、とにかく撃ちまくるしかねェ!」
言われた通り、銃を乱射する。
反対側のくぼみでは、両腕に銃器を下げたギムレットさんも、弾を無造作にばら撒いていた。
アーキテクターの大部隊の先頭は、銃撃によって倒れたが、後続が破壊された仲間の上を踏み絞め向って来る。
「ガアッ!?」
黒人の大男は、左腕を狙撃され銃を落とした。
「ギムレットさん!?」
「バカ野郎、壁から顔出すんじゃねェ。死ぬぞ!」
ギムレットさんの指示で、慌てて身体を引っ込める。
けれども、銃を持ったアーキテクターの大部隊は、すぐそこまで来ていた。
「ゴメン、黒乃……ここまでか!」
ボクは目を瞑(つむ)って、死を覚悟する。
「ゴメンなどと、軽々しく謝らないで貰いたいわね」
何処かから、聞き覚えのある女性の声が聞こえた。
「な……なんだ!?」
目を開けると、目の前に来ていたアーキテクターたちが、後ろからの銃撃によって鉄屑(スクラップ)へと変えられている最中だった。
「久しぶりね、宇宙斗」
黒いクワトロテールの女性が、ボクに話しかけて来る。
「でもまさか、貴方がこんなに大胆な行動に出るとは、思わなかったわ」
ハッキングをしたのであろう、アーキテクターの部隊を従えた黒乃は、スクラップの山を蹴とばしながらボクの前に現れた。
「またキミを……失いたく無かったから……ね」
気の抜けたボクの口が、勝手に動く。
どうやらボクの本音は、そんなところだったみたいだ。
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