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一千年間引き篭もり男・第01章・01話

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引き籠りと女子高生

「……いつからだろう? 学校に行くのが……社会へと出るのが怖くなったのは……」

 ボクは、薄暗く小さな部屋のド真ん中に、ずっと敷たままの布団に潜り込んでいた。

『群雲 宇宙斗(むらくも そらと)』……それがボクの名だ。
 両親が付けてくれた名前は、自分の中で唯一気に入っている部品(パーツ)である。

「ジリリリリリリリ」
 外界では、目覚まし時計のベルがうるさく鳴り響く。
昨夜のボクが、『夜の間だけ有効な勇気』を振り絞って、セットしたヤツだ。

「明日こそは学校へ行って、みんなの輪の中になんとか自分を潜り込ませて……」
 朝目覚めると……夜に夢描いた『それなりに勇敢で英雄的(ヒロイック)なボク』など、もうどこにもおらず、替わりにヒッキーが一人、布団の中で背中を丸めていた。

「ダメだダメだ!  現実はそんなに都合よくは進まない……」
 布団の中から手を伸ばし、昨日の自分が描いたシナリオをリセットしようと試みる。

「……ん? なんだこれ? プニプニしてて、妙に生温かいな?」 
 本来なら、目覚まし時計の硬く冷たい感触を伝えるハズの右手シナプスは、今日に限っては『生温かく柔らかい感触』を脳に運んで来た。

「この手触り、何の感触だろう? フィギュアじゃないし……」
 記憶の中から、部屋にあるアイテムを片っ端から引っ張り出した。たが、該当する手触りの物はついに思い浮かばず、観念したボクは隙間から外を覗き見る。

「これって……膝小僧??」目の前にあった二つの白い物体は、明らかに膝小僧だった。
 そこから後ろへと伸びる張りのある太ももが、紫陽花を連想させるチェック柄の布切れが生み出す暗闇へと、フェードアウトしていた。

「ウチの高校の、女子のスカートだッ!」
 ボクには姉妹もいないし、気の強い幼馴染みもいない。

「ボッ、ボクは……女の子の太もも……触ってる?」
 宇宙人の居候娘と知り合った記憶も無ければ、妖怪娘と親しくなった経験も無かった。

「おわああぁぁぁぁぁーーーーーーッ!」咄嗟に布団を跳ね除け、後ろへと飛び退く。
これ程、慌てて飛び起きた記憶は、最近無かった。

「あなた、ホントに『引き篭もりを満喫してる』のね」
 ボクの前に座っていた、一人の少女が言った。

 彼女は、長くて美しい黒髪を、頭の左右で二つに分けて前後に垂らしている。
ツインテールならぬ、『クワトロ・テール』とでも呼ぶべき独創的な髪型だった。
四つの髪の先端には、太陽・星・月・ハート型の髪飾りが吊るされている。

 柔らかな太ももの正体は、クラスメイトの『時澤 黒乃(ときさわ くろの)』だった。

「悪いけど、勝手に上がらせてもらったわ。鍵はかかってなかったし、一応は家の外から呼びかけてみたのよ? 形式的にだケドね」
 彼女は、よく言えば論理的に、悪く言えば機械的で事務的に言った。

「けれども、もう少し普通に起きれないワケ? 何をそんなに慌てているのかしら?」
 時澤 黒乃は表情一つ変えずに、真顔だった。

「そりゃ驚くよ……時澤さん? どうしてボクの部屋に?」
 ヒッキーであるボクは、殆ど高校には通って無かったが、その僅かな出席日数の中でも、彼女が特別な思考の持ち主で、クラスから浮いた存在であるコトは理解できた。

「何故って、あなたに用があるからに決まってるでしょ?」
 時澤 黒乃の茶色い瞳が、ボクに向けられる。
「な、何の用があるって言うんだ? しがない引き篭もりの部屋に……キ、キミが」

 いくら、変わり者とは言え、曲がりなりにも『女子高校生』である時澤黒乃が、ヲタクの辛気臭い部屋に居るのだ。
普通では考えられない事であり、ボクの心臓は激しく脈打った。

「だからそれよ。アナタ、このままずっと『引き篭もっていたくはない』かしら?」
「え? 引き篭もっていたい……って? ど、どういう意味?」
 このときのボクは、どれだけ間抜けな表情をしていただろうか?

「言葉通りの意味よ? アナタ、『引き篭もるのが好き』なのでしょう?」
 彼女は両腕を、ボクの部屋の汚い床に付け、四つん這いになる。
壁際に倒れ込んでいたボクに向って、しなやかな動きで迫って来た。

「……な、なんなんだよ? か、顔が近いッ! うっわあぁぁぁッ!?」
 人間の言葉など全く理解していない、気まぐれな猫科動物の如く、ボクの頬に顔を摺り寄せる。
そして時澤 黒乃は、瞳を赤く光らせ耳元で囁いた。

「アナタが『引き篭もるのに相応しい場所』を用意してみたわ。この部屋よりも、ずっと静かで落ち着いた場所よ。どうかしら? 今から行って見ない?」

「な、何を言っているんだ? キミは……!」ボクの反論は、彼女の口唇で遮られる。
 それはキスなどでは無かった。
彼女はペロペロとボクの顔を舐め始めたのだ。

「く……くすぐったい、よ。やめて……時澤……さん」
 彼女の柔らかく湿った舌が、ボクの頬に何度も触れる。

 間近で観る時澤 黒乃の肌は、女神のように美しく透き通っていた。

 

錬金術は実在する

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