人間と魔族
舞人はルーシェリアと、『新たに生まれた双子の少女』を伴って、教会に帰還を果たす。
教会の正門には栗色の髪の少女が、心配そうな表情を隠しながら待っていた。
「もうッ! どこ行ってたのよ! 街の中心が炎に包まれて、大変だったんだから!!?」
誰かさんに閉め出されたハズの舞人は、ルーシェリアと共に苦笑いを浮かべる。
「その街の中心で、戦っていたんだよ……」「疲れたのじゃ」
疲労の色を隠せない、舞人とルーシェリア。
「子供みたいな言いワケをしないッ! 舞人ったら、そんなに服を汚しちゃって……ン?」
するとパレアナは、舞人が連れ帰った、『白い髪に褐色の肌をした二人の少女』に気付く。
「ねえ舞人。そのコたち……誰?」
「我か? 我こそが、死霊の王『ネビル・ネグロース・マドゥルーキス』なるぞ!」
「いや! 我こそが真の『ネビル・ネグロース・マドゥルーキス』である!」
同じ髪色に同じ肌の色をした、二人の少女は互いに罵り合う。
「いやいや、我こそが、死霊の王『ネビル・ネグロース・マドゥルーキス』なるぞ!」
「いやいやいやいや! 我こそが真の『ネビル・ネグロース・マドゥルーキス』である!」
かつて、死霊の王だった二人は、再び生産的で無い回答を繰り返した。
「どーいうコトなの、舞人? ちゃんと説明して」「じ、実は……」
舞人が、事の顛末を説明しようとすると、ルーシェリアがしゃしゃり出て来る。
「二人ともご主人サマによって、汚れた体にされてしまったのじゃ……その『過酷な現実』を受け入れられず、混乱しておるのじゃろうなぁ……」
「ル、ルーシェリア! お前、ワザと言ってるだろ! そんな言い方したら……!!?」
「マ~~イ~~ト~~ッ!!?」鬼神の形相で仁王立ちをする、パレアナ。
「だ、だからこれは……違うんだ! 話を聞いて……!?」
舞人は静止を試みるが時すでに遅く、神聖なる教会に血の雨が降り注いだ。
「ふ~ん。この『ガラクタ剣』に、そんな能力があっただなんて、にわかに信じられない話ね~」
「……やっと……納得して……くれ……た?」
ボロ布のように成り果てた舞人が、問いかける。
「それじゃあ、この子たち……ホントに『魔王』や『死霊の王』なのね?」
未だに半信半疑のパレアナだったが、信じようとはしてる様子だった。
「少し目が紅いとか、髪の毛が真っ白とかあるケド、見た目は『人間の女の子』なのにね」
「魔力はある程度残ってるし、それなりに戦える。もっとも、本来の姿の比べたら、全然だケドね」
「ぜんぜんなのじゃぁ!」「人間よ」「さっさと戻せ!」
三人の少女は、舞人の乗りかかったり、蹴りをいれたりしている。
するとパレアナは、いきなり少女たちに説教を始めた。
「あなた達! 今まで大勢の人を苦しめて……ダメじゃない!」
それに対してルーシェリアは、コトも無げに言い放った。
「それは、人間の『身勝手な見解』と言うものじゃな。人間など、人間同士で戦争を繰り返し、開発で森を焼き、汚染や汚水で国土を荒廃させておるでは無いか?」
「……でも、たくさん人が死んだのよ? そんなコト許されるハズが……!?」
戦災によって両親を奪われた少女は、目を赤く腫らしながら必死に訴える。
「だから、それが『人間のエゴ』なのじゃよ。お前たち人間とて、我ら魔族を大勢殺しておるでは無いか。お互いサマじゃろう?」
「そ、それは……」パレアナは、反論できなかった。
白い髪に褐色の肌の双子も、便乗してパレアナを責める。
「人間は、敵対しない種族の土地すら、自分たちの都合で『開拓』と美化して侵略し……」
「……動物を、肉を取るためだけの目的で、『家畜』と称して飼い慣らしているではないか?」
「自分たちが同じ目に遭っても、仕方ないとは思わぬのか?」「だ、だってェ!?」
かつて『暗黒の魔王』や『死霊の王』だった者たちの辛らつな言葉は続き、ついには『勝気な栗毛の少女』も泣き崩れる。
「お前たち、言い過ぎだぞ!」「何がじゃ? ご主人さまよ?」
だがルーシェリアは、舞人にも冷たい視線を向ける。
「『強き者』が『弱い者』を蹂躙し支配する……それが、世の真理じゃ。我ら魔族も、お前たち人間も、そうやって生き長らえて来た種族じゃろ? のォ……ご主人サマよ?」
舞人は厳しい表情で三人の前に立ったが、直ぐに少女たちをギュッと抱き締めた。
「ま……それだけじゃ無いだろ? 『人間』も『魔族』も……さ」
「フ、フンッ!」「うっとおしいわ」「な、何なのじゃ、ご主人サマ!?」
少年は、反抗的な三人の女の子たちの頭を優しく撫でる。
「……気持ちが……良い……のじゃ」「な、なんだか妙な……気分……」「眠く……なって……」
嫌がっていた元魔族の少女たちも、舞人の腕の中で目を閉じ……やがて寝入ってしまった。
舞人とパレアナは三人を毛布で包み、少年の部屋の布団に寝かせる。
「お疲れさま……舞人……」
少女の目に涙は無く、いつもの明るい笑顔に戻っていた。
「だ、大丈夫か、パレアナ? コイツら平気で、かなり酷いことを……」
「ん~ん、そうじゃなくて……この子たちの意見も、一つの真理なんだなあって思ったの。人間の側からしか見ないでいたら、そりゃあエゴだって怒るよね? わたしもシスターを志す者として、もっと勉強して修行して見識を深めなくっちゃ!」
そう言うと少女は、少年の頬に軽く口付けをする。
「んなッ!?」
意表を突かれた舞人の顔は、急激に赤くなった。
「……舞人。アンタ旅に出て、少しは成長したのかもね。少しだけ見直したわ、エイ!」
「うわあああッ!?」
パレアナは少年の頭に毛布をおっ被せると、その隙に部屋を出て行ってしまった。
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