ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~第5章・12話

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幼なじみの想い

 舞人は、ルーシェリアの膝を枕に、意識を失っていた。

「まったく……無茶をしおって」舞人の開いた傷口からは、ドス黒い血が止め処なく溢れ続ける。
「……じゃがのォ、ご主人サマよ。あの剣士の言ったことは、近い将来恐らく……」

 漆黒の髪の少女は、意識の無い舞人の傷口に、自らの透き通った雪のような唇を合わせた。

「今度は……妾が、ご主人サマを助けてやる……」
 ルーシェリアは、血まみれの少年を胸に抱き寄せる。

「ま……ままま……まさかだモン!」「闇の呪いを、吸収するつもりかモン?」
 主であるルーシェリアの行動に、驚きを隠せない八つ子たち。

「魔王であったときなら問題は無かろうが、今のお前は『ただの人間の少女』なのだぞ」
「剣士の黒き剣の呪いによって、お前が死ぬコトになるぞ?」
 だがルーシェリアは、双子の忠告にも耳を貸さなかった。

「この城、そろそろヤバそうモン」「とっとと逃げ出すモン」
 『富の魔王の城』は、主の魔力が失われると、眩いばかりの財宝とともに跡形も無く崩れ去る。

 その頃、覇王パーティーの双子司祭は、街外れの教会で朝を迎える。
一軍を預かるプリムラーナ将軍は既に帰城していたが、双子姉妹はそのまま滞在していた。

「リーセシルさんに、リーフレアさん! 今日も回復魔法のご指導、宜しくお願いします!」
「パレアナ、今日も元気だねえ」「料理を色々と教わって……わたし達の方が感謝してますよ」
 三人の少女はその後も、ガールズ・トークに花を咲かせながら朝食の準備をしていた。

「お、今日は何かな?」「最近やっと、双子姉ちゃんのメシも、喰えそうなモノも出るようになってきたからな!」 「コラァ、失礼でしょ! アンタたちこそ、少しはお手伝いをしなさ~い!」
 台所に入って来た生意気な弟たちを、パレアナは追いかけ回す。

 すると、教会の玄関でドアノッカーが鳴らされるのが聞こえた。
「あ、舞人のヤツかも!」パレアナがパタパタと駆けて行くのを、双子姉妹は微笑ましく見送る。
「やっぱ気になるんだねぇ~? 舞人くんのこと」「幼馴染みですか……良いものですね」

「……アイツ、今までどこほっつき歩いてたんだか」
 一応は舞人で無い可能性も考え、少女は恐る恐るドアを開ける。
「遅い! リーセシルさん達が、ず~っと待っててくれてるのにィ~、もう……!!?」

 するとそこには、瀕死の少年と、その腕に抱えられた『漆黒の髪の少女』の姿があった。
「ど……どうしたの、舞人ォ!? しっかりして……!!」
「パ、パレアナ……お願いだ! ルーシェリアを……彼女を助けてくれ!!」

 自らも体中黒い傷だらけの少年が、必死に助けを求めている。
「ルーシェリアが……ボクの受けた傷の呪いを……身代りに自分が受けて……!!」
 玄関での異変を察して、双子司祭も駆けつけて来た。

「と、とにかくこのコを中へ……!」「我ら姉妹で治療します」
 双子姉妹の言葉に従い、舞人はルーシェリアを聖堂まで運んだ。

「あ……あたしも手伝います! 舞人、アンタも早く治療を……」
「ボ、ボクは大丈夫。だから、ルーシェリアを……助けて……やって……」
「ま、舞人!!?」栗毛の少女の胸に、青髪の少年が気を失って崩れ落ちる。

「パレアナは、舞人くんの治療をしてあげて」
「このコ……ルーシェリアちゃんは、わたしたちで何とかしますから」
「わ、わたしの……回復魔法で?」双子姉妹の指示に、不安を抱くパレアナ。

「大丈夫だよ。パレアナの魔法、ちゃんと上達してるから」
「わたしたちの料理の腕も上がってます。パレアナも自分を信じて」
「う、うん……やってみる」栗毛の少女は、決意を固めた。

 教会の祈りを捧げる聖堂で、姉妹はルーシェリアの治療を開始した。
「リーフレア……舞人くんの傷は、雪影さんの『黒楼丸』によって付けられたモノだよ……」
「そ、それでは天酒童 雪影様と、舞人さんが戦われたと言われるのですか? 姉さま……!?」

「たぶん……ね。だからこれは、普通の回復魔法じゃ対処できない『黒楼丸』の呪い……」
「……その呪いを、ルーシェリアちゃんが……!? これは……どうすれば……」
 不安に駆られる妹の手を、姉はギュッと握り閉めた。

「わたしは、大事な妹を舞人くんと、このコに助けてもらったの。だから今は……」
「そうですね、リーセシル姉さま! わたしも命を救われた身として、必ずルーシェリアちゃんを救ってみせます!」

 姉妹が解呪の魔法を詠唱し始めた頃、パレアナは自室に幼馴染みを担ぎ込む。
「……今のわたしじゃ、リーセシルさん達の足手まといにしかならない……でも!!」
栗毛の少女は覚え立ての回復魔法を使って、舞人の傷を癒そうと覚悟を決める。

「絶対にわたしが、舞人を回復させてみせるからね!!」
 けれども決意とは裏腹に、魔法が安定しない。
「もうっ! ど、どうして……どうしてわたしじゃ上手く出来ないの!?」

「……少し力が入り過ぎている」「もう少し、精神を落ち着かせた方が良い」
 パレアナが声の方を見ると、そこには少女たちが狭い部屋に大勢押しかけていた。
「あ、貴女たちは……えっと確か『ネビル・ネグロース・マドゥルーキス』……さん!?」

「今は違う。我は、『ネリーニャ・ネグロース・マドゥルーキス』だ」
「我が、『ルビーニャ・ネグロース・マドゥルーキス』である。その者が、勝手に名付けた」
 パレアナは、一瞬目を丸くしたが、すぐに納得した表情に替わる。

「そっか……今はもう、『ネリーニャ』ちゃんと、『ルビーニャ』ちゃん……なんだね?」
 栗毛の少女は、それぞれ別の髪型に変えられた双子姉妹を、それぞれの名前で呼んだ。
白い髪の双子姉妹も、オレンジ色の優しい瞳を向ける。

「そうだ、パレアナ……」「それくらい自然な方が良いぞ」
 双子に言われて手元を見ると、回復魔法が安定しているのに気付く。
「あれ……魔法が安定してる! ありがとう。ネリーニャちゃんにルビーニャちゃん」

「別に……」「大したことじゃない」お礼を言われた双子は、照れくさそうにソッポを向いた。
「それにしても、『名付け親』だなんて偉そうに……」

 パレアナは、回復魔法をかけながらも、少年の鼻先をツンッと弾く。

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