好戦的な少女たち
サタナトスたちが、次元迷宮(ラビ・リンス)の最深層にある部屋に捕らわれていた頃。
地上の闘技場では舞人たちが、ラビ・リンス帝国を打倒するために周辺諸国が送り込んで来た刺客たちと、戦いを繰り広げていた。
「フッ、拙者とここまで刃を交えるなど、大したモノよ」
レオ・ミーダスは、重力から自身を開放して舞人に斬り付ける。
「ボクは、戦争を止める。今は、人間同士が争っている時じゃないんだ!」
ガラクタ剣(ジェネティキャリパー)で身体強化をして、舞人はレオ・ミーダスの刃を受け止めた。
「もう遅いと、言っている。既に戦争は、始まっているのだ」
「……クッ、こんなところで戦っている間にも、街の人たちが……」
舞人の耳にも、クレ・ア島の港街に飛来する砲弾の爆発音が届く。
「拙者の大暗刻剣(マハー・カーラ)は、周囲の重力を自在に変化させられる。もちろん、反発する方向(反重力)にもな!」
「……なッ!?」
舞人の身体は急激に飛ばされ、再び闘技場の壁にめり込んだ。
「ご主人サマも、苦戦しているようじゃな。魔族をいたいけな少女へと変えるジェネティキャリパーも、相手が人間となると真価は発揮できぬか」
闘技場の上空を旋回しながら、戦況を観察するルーシェリア。
コウモリの翼をたたみ、3人の船長たちの元へと降り立った。
「ヒェェ。このラビ・リンス帝国ってのは、どうなってやがんだ!?」
「恐ろしい大魔王が、巨大な竜巻や雲の龍(クラウドドラゴン)で襲って来たかと思えば……」
「今度は隣国の使者だったヤツらが、いきなり敵として襲って来るのだからな」
ティンギス、レプティス、タプソスが、続けざまにまくし立てる。
「どうやら、戦争によって服従させていた周辺諸国が、叛乱を起こした様じゃな」
「マジかよ。だがオレらにゃ、関わりの無い戦いだぜ」
「イヤ。お前たちは、ラビ・リンス帝国から栄誉を与えられている」
「普段は名声を得る代わりに、有事には戦いに赴(おもむ)かねばならない」
「無論、アステ・リア様に仕えていた我らが、戦いに赴くのはとうぜんだ」
イオ・シル、イオ・セル、イオ・ソルの、3人の少女が言った。
「そう言われると否定し辛いが、オレらはこの国の人間じゃない」
「ラビ・リンス帝国の、肩を持つつもりは無いぞ」
ティンギスに続き、レプティスとタプソスも反論する。
「心配するな、後ろを見ろ」
「お前たちが、戦いを望まぬとしても……」
「敵は、そうは思ってくれぬ」
船長たちの後ろに視線を向ける、ハト・ファル、ハト・フィル、ハト・フェル。
「お前たち、パイ・アが逃さない……」
頭からイノシシの毛皮を被った、背の低い少女が言った。
「コイツはさっき、ルーシェリアの嬢ちゃんを吹き飛ばしたヤツじゃないか!」
慌てて盾を身構える、ティンギス。
「アタイらも、やらせて貰うよ」
「パイ・ア。アンタに比べりゃ、力量じゃ劣るがね」
「コイツらくらいなら、相手が出来そうだ」
グリィ・ネ、ズリィ・ネ、ブリィ・ネの3人の少女たちも、パイ・アの背後に姿を現わした。
顔立ちも髪の色も異なる3人だったが、全員が曲刀とラウンドシールドを装備している。
「奴隷に身をやつしていた風情が、我らを見降すなどと……」
「我らは、新たに白き癒しの力を得たのだ」
「お前たちに、身の程を教えてくれるわ」
スラ・ビシャ、スラ・ビチャ、スラ・ビニャの3人が反応し、三日月の刃を持った斧を構えた。
「お、お前ら、好戦的過ぎだろ!」
「まあ、向こうもだがな」
レプティスとタプソスも、突っ込みがちな少女たちの前に立ち、盾を構える。
「面白い。ならば、行くぞ!」
「先陣は、我らが受け賜(たま)わった」
「我らが斧を、受けるがイイ!」
ロウ・ミシャ、ロウ・ミチャ、ロウ・ミニャは、両腕の斧を振り上げ、敵に立ち向かって行った。
「オイ、お前。こっちも、戦いの続きする」
パイ・アも、像のような2本の大きな牙の生えた巨大斧を、漆黒の髪の少女に向けた。
「ヤレヤレじゃの。仕方あるまい……」
ルーシェリアも重力剣を抜いて、パイ・アを迎え撃った。
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