新たな女将軍の正体
闘技場に集った観衆たちの、野太い声が木霊する中を、新たなるミノ・アステ女将軍に任命されるであろう女性が入場する。
「オオ! アレが次の、ミノ・アステ将軍かよ!」
「豊満な身体だった前の女将軍に比べると、ずいぶん華奢(きゃしゃ)だな」
「だけど黒い長髪もキレイだし、けっこう美人なんじゃねェか?」
観客たちの噂話の題材となっている、次代のミノ・アステ将軍。
頭には、長さの異なる角の生えた、黄金の兜を被っていた。
小柄な身体を覆う黄金の鎧には、星や月がデザインされ、紫色のマントを纏(まと)っている。
「な、なあ、レプティス、タプソス。次の女将軍ってェのは、まさか!?」
ティンギスが、同僚の2人の船長に返事を求めた。
「ああ。どうやら、そうらしいぜ」
「道理で、姿を見ないハズだ……」
2人も、ティンギスの言っている意味を理解し納得する。
門をくぐり抜け、歓声が渦巻く闘技場の中心へと歩みを進める、次代のミノ・アステ将軍。
豪華な祭壇へと昇ると、王妃パルシィ・パエトリアの立つ闘技場の宣誓台に視線を向けた。
「静まれ、静まれ。これより、神聖なる襲名式を執り行う」
「皆の者、静まれェ!」
観客席の内側に配された兵士たちが、観客に静まるよう促(うなが)す。
闘技場は、30秒くらいの時間をかけて静まり返った。
「貴女が、新たに栄光あるミノ・アステの名を、襲名する者ですか?」
跪(ひざまづ)く小柄な女性に、問いかける王妃。
「どうやら、その様じゃな」
漆黒の長い髪をした女性が、他人事のような言葉を返した。
「ずいぶんと、馴れ馴れしい口ぶりですね」
女性の返答に、パルシィ・パエトリア王妃は眉を潜(ひそ)める。
「まさか妾が、この国の雷光の3将に任じられようとは、思ってもおらなんだのでな。敬語とやらも、学んでおくべきじゃったか?」
黄金の兜を外す、新たなる女将軍。
漆黒の髪が風に靡(なび)き、吊り上がった紅い瞳が、美しい王妃の姿を捉えていた。
「や、やっぱ、アイツだ。新たなる女将軍ってェのは、ルーシェリアだったんだ!」
豪華な観覧席で、ドレッドヘアの船長が頭を抱えながら立ち上がって、大きな声を張り上げる。
「申しワケ無いのですが、勝者であっても今は神聖なる就任式の場。お静かに、願えますか?」
「す、すまねェ」
兵士に注意され、大きな身体を丸めて座る、ティンギス。
「貴女は、他国の者なのですね。先代のミノ・アステ女将軍を倒した功績は認めますが、我がラビ・リンス帝国に忠誠を誓う気はあるのですか?」
毅然(きぜん)とした態度で詰問(きつもん)する、王妃。
「ラビ・リンス帝国の平和のために、妾はこの国にやって来たのじゃ」
「我が国の、平和のため? ミノ・リス王は、戦争を行う予定ですが……」
「人間の国同士で、戦争なぞしている場合では無くなったのじゃ。パルシィ・パエトリア王妃、先に起きた大津波をご存じか?」
王妃の前で、立ち上がるルーシェリア。
「ええ、存じております。南の海で大きな津波が発生し、多くの人々が亡くなったと。幸い、我が国に被害はありませんでしたが」
「津波は、かつての古代文明の海底都市が、深海より浮上し空に舞い上がって、空中都市となったコトで発生したのじゃ」
「空中都市のウワサは耳にしましたが、まさか本当に存在しているなどと……」
「残念ながら、存在しておる。今はまだ、中立な様じゃが……」
「空中都市に、人が住んでいるのですか?」
「話せばながくなるのじゃが、津波を巻き起こした原因を造った男が、良からぬ野望を抱(いだ)いておってな。ヤホーネスと、海洋国家フェニ・キュアのカル・タギアの街にも、かなりの被害が出ておる」
「野望……その者が、我がラビ・リンス王国にも、災いをもたらす……と?」
不安に駆られた王妃が、ルーシェリアを問い質(ただ)した。
「実を言えば、王妃。妾たちは、ヤホーネスのレーマリア女王と、カル・タギアのバルガ王の勅使(ちょくし)として、この国に……」
「お待ちください、パルシィ・パエトリア王妃。この者の言(げん)、にわかには信じられません」
誰かが、ルーシェリアの言葉を遮(さえぎ)る。
1同が目を向けると、そこには黄金の鎧を装備し、ヒスイ色の長い髪をした男が立っていた。
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