ミノ・ダウルスの真実
地下迷宮の行きつく先の、荘厳な間の玉座に座る、豪奢なローブを纏(まと)った白骨。
「これが、ミノ・リス王の成れの果てかよ。コイツのお陰で、どれだけ多くの血が流れたと思ってる!」
ティ・ゼーウスは、ハート・ブレイカーを実体化させた。
「白骨化していると言うコトは、死んだのは最近じゃない。だけどローブの状態を見る限り、何十年も昔ってワケでも無さそうだ」
サタナトスは、玉座の白骨を観察する。
「ミノ・リス王が死んでからの月日、王妃とミノ・ダウルス将軍は王が生きていると偽って、民衆や軍隊を欺(あざむ)き続けて来たのだな」
ケイダンが、言った。
「クソったれが。オレをこき使った当の本人は、とっととあの世に逝っちまってたとはな!」
ティ・ゼーウスは、真っ赤な臓物の刀身を持った剣を、白骨となった王へと向ける。
「父上に、手出しはさせぬ!」
大魔王ミノ・ダウルスは、アステリオスを両手に持ち、玉座の前に立ちはだかった。
「そんなになっちまっても、お前はソイツを護るのか?」
「父を護るのは、息子として当然だ」
「だがオレや北の国々のヤツらは、コイツのお陰で散々な目に遭って来たんだ。1太刀でも浴びせないと気が済まねェ!」
「止せよ、ティ・ゼーウス。キミの目的は、ミノ・リス王の暗殺だったハズ。今さら白骨を叩き斬ったところで、なんの解決にもならないだろ」
アッシュブロンドの長髪の少年の前に立ち、機先を制するサタナトス。
「チッ、仕方ねェな。だがお前も、当てが外れたな」
「ン。どうしてだい?」
「お前は、ミノ・リス王の軍隊を、欲していたんだろ?」
「そう。ボクが欲していたのは、軍隊であって彼自身じゃない」
「だがミノ・リス王が死んだ今、軍をどうやって束ねる?」
「この国の、大将軍サマに束ねて貰うのが、最善なんだケドね」
ヘイゼルの瞳には、黄金の鎧を纏った金髪の男が映っていた。
「残念だが、サタナトス。お前に忠誠を尽くすコトは無い。オレが仕えるのは、父ただ1人よ」
「ヤレヤレ、融通の利かない大魔王サマだ。ボクのプート・サタナティスでも、完全には操れないとは。神の血(イー・コール)とやらは、厄介な代物だよ」
首を横に振る、金髪の少年。
その時、迷宮が激しく揺れた。
「な、なんだ。今度は本物の、地震か?」
「イヤ。大建築家が、迷宮を弄(いじく)っているのだろう」
ティ・ゼーウスに答える、ケイダン。
予想通り、しばらくしてダエィ・ダルスが、迷宮最奥の部屋に姿を現した。
「お前たち、見事にやってくれたな。大将軍を、屈服させるとは大したモノだ」
髭を剃り落とした顎を撫でながら、ダエィ・ダルスは玉座の前へとやって来る。
「キサマも、王の亡骸を傷付ける気か?」
戦斧を携(たずさ)えたミノ・ダウルスが、再び玉座の前に立ちはだかった。
「権勢を誇ったミノ・リス王も、こうなってしまっては傷付ける気にもならん。だがわたしには、他に目的があるのだ」
「へェ。それは、初耳だね」
金髪の少年が、あどけない顔を見せる。
「まさかお前は、自分の目的を果たすために、オレたちを利用したのか?」
「スマンな。その通りだ。わたしには、王に奪われた息子が居る」
大建築家は、言った。
「息子だァ。だがアンタがこの迷宮に、囚われた時点での話じゃないのか。だったら、とっくに……」
「ミノ・リス王は、好色な王だった。わたしの息子も、目を付けられていたのだ」
「な、なるホド、美少年だったと。生きてる可能性は、あるのか」
複雑な表情を浮かべながら納得する、ティ・ゼーウス。
「確かに父は生前、周辺諸国から多くの美少年や美少女を集めておられた。だが迷宮が完成して程なくして、父上は亡くなる。父の寵愛を受けた者たちは全て、オレが殺した」
「な、なんと言う……」
焦燥する、大建築家。
「母は怒り、オレをこの地下迷宮へと封じられた。それ依頼、オレは地上の動静を知らぬ」
ミノ・ダウルスは、哀し気な瞳で迷宮の天井を見上げていた。
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