スキアビオ・プブリビス・アフリカネス
ボクたちデッドエンド・ボーイズが、ハーフタイムのミーティングを行っていた同時刻。
当然ながらミーティングは、対戦相手であるフルミネスパーダMIEのロッカールームでも、同時並行で行われていた。
「お前たち、1点は取られはしたが、まずまずの立ち上がりじゃないか」
若きチームオーナーである、有葉 路夢(あるば ロム) が、汗を拭いたり給水しているメンバーに語りかける。
「お言葉ですが、オーナー。我々は、1年を通しての無失点継続を計画していました。それが初戦で破れるなんて……けっこうなショックですよ」
チームキャプテンの、樹莉 海斬(じゅり カイザ)が異議を申し立てた。
「しかも相手は、フィールドプレーヤー全員が、高校1年っていうじゃ無いっスか」
「2点差とは言え、そう考えれば素直に喜べる点差では無いですよ」
ボランチコンビのネロさんとスッラさんも、キャプテンの意見を支持する。
「相変わらずストイックだな、お前ら。嫌いじゃないぜ。それはさて置き……だ」
「まだなにか、あるんですか?」
「オーナーを、そう邪険にすんじゃねェよ、カイザ」
兄弟のような関係の、ロムとカイザ。
「以前から話してあった、監督が来ている。今日の前半は、あえてスタンドから観戦していただいたが、後半からは実際にベンチに入って指揮を執ってもらう」
ロムオーナーが、ロッカー室のドアを開けると、1人の男が入って来た。
「イタリアのトップリーグの名門クラブでも、指揮を執った経験のある、スキアビオ・プブリビス・アフリカネス監督だ」
男は、紺色に白いピンストライプのスーツを着こなし、黒い艶のある革靴を履いている。
白いシャツにワイン色のネクタイを締め、茶色味がかった黒髪を、頭の後ろで束ねて垂らしていた。
「紹介にあった、スキアビオだ。今日より、このチームの指揮を執るコトとなった」
通訳を挟んで、監督のイタリア語が訳される。
「前半、スタンドから試合経過を見ていた。良い部分も多いが、悪い部分も目立った印象だ」
通訳がそこまで話すと、カイザが口を開いた。
「スキアビオ監督。我々のチームの、どの辺りが修正点だと思われますか?」
「それを、これから話そうと思う。これを見給え」
ホワイトボードの、フォーメーション図を指し示す、スキアビオ監督。
「これが、我々のチームのフォーメーション。5-4ー1で、変則的に左サイドバックが、ウイングバックのように高い位置を取ったままになっている」
「そこが、問題であると?」
「問題の1つだ。この左サイドバックの裏のスペースを、相手の右の快速ウイングに、使われてしまっている」
「す、すまない。オレはまだ、守備が苦手なんで……」
自信無さげに手を挙げる、トラヤさん」
「なるホド、攻撃的ポジションからの、コンバートと言うワケか。今のところ、バックラインの統率でカバー出来ている。大事には至っていない様だし、今後の改善に期待するとしよう」
「他にも、問題点があると言われるのですか?」
更に質問をする、カイザさん。
「このチームは、各ポジションに好選手を配しているが、攻撃的MFだけが手薄だな」
「はい。それはオレも、感じていました」
キャプテンの言葉を聞き、顔を強張らせる2人の選手。
「そんな顔をする前に、プレイ面を改善する努力をするのだな。前半、ショートコーナーから逆に相手にボールを奪われ、ピンチを招いている。フォワードに有効的なパスも出せてないし、自分たちでシュートも撃てていない」
スキアビオ監督の理詰めの正論に、グウの音も出ない攻撃的MFの2人。
「後半、この2枚を替えて行く」
「お言葉ですが、スキアビオ監督。ウチには、彼らよりも優れた選手は……」
「オーナーから、聞いていないのか。2人の選手を、イタリアから連れてきている。今日の登録にも、間に合っているハズだ」
若きオーナーを見る、スキアビオ監督。
「ええ、準備は出来てますよ」
ロッカールームに、2人の選手が入って来ていた。
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