大言壮語(ビッグマウス)
フルミネスパーダMIEのロッカールームに、入って来た2人の選手。
1人は黒髪の、クルクルとした巻き髪の天然パーマだった。
肌は日焼けしていて、精悍(せいかん)な顔付きをしている。
「彼は、託彗 昴流(たくす スバル)。父親がトルコ系ギリシャ人で、日本人の母親とのハーフだそうだ。ポジションは、FWだな」
有葉 路夢(あるば ロム)オーナーが、そのウチの1人を紹介した。
「ケッ! 親の国籍なんざ、どうだってイイだろ。ついでに言や、母親だってブルガリア人の血が混ざってんだ。だが、オレの国籍は日本だぜ」
悪態を付く、スバル。
目も彫りが深い2重で、太い眉に巻き髪も相まって、エキゾチックな顔立ちをしていた。
「また随分と、個性的な選手を取りましたね」
カイザさんが、キャプテンとして意見を述べる。
「スキアビオ監督の、肝入りだ。彼は中学生の年代から、トルコやギリシャのクラブのユースに所属していてな。そこでの活躍に目を付けた監督に、見出されたと言うワケさ。彼のプレイはオレもビデオで見たが、実力は保証するぜ」
「歳は、いくつなんです?」
若きオーナーの自信に満ちた顔を見て、カイザさんが質問する。
「彼は、17歳だ」
「それじゃ、オレと同じッスね」
キーパーの、奥多 愛楠(おくた アグス)さんが言った。
「なんだ、タメが居んのかよ」
「サッカーは、年齢でやるスポーツじゃないからな」
「それ、オレが言おうと用意してた台詞だぜ、まったく」
高校生年代の2人の会話に、笑いが起きる。
「ウチは、選手の年齢も若ければ、チーム自体も今日始動したばかりだ。宜しくな、スバル」
「安心しな、カイザキャプテン。オレにパスを寄こせば、今日の相手なら簡単に切り裂いてやんぜ」
「大言壮語(ビッグマウス)な、ヤツだな」
「お前もだろうが、ネロ」
スッラさんに、軽くあしらわれるネロさん。
「オ、オレはもっと、現実的ッスよ」
「そんで、もう1人の紹介はまだですか?」
「うわッ、無視かよ!」
「時間も迫っているしな。簡易的な紹介になるが、許してくれ」
スッラさんに促(うなが)され、慌てて時計を確認するロムオーナー。
「構いませんよ。わたしは、チームの意に沿うのみで~す」
もう1人の、交代選手が言った。
「彼は、ヨシュア・エルロー。イタリア北部の出身で、とうぜんイタリア国籍だ。イタリアの、各年代の代表にも選ばれている」
「わたしは、ヨシュアね。まだ日本語ヘタだケド、よろし~く」
ヨシュアさんは、ウェーブのかかった輝かんばかりの金髪に、ヘイゼルの瞳をしていた。
真っ白な肌に整った顔立ちで、まるでルネッサンス時代の絵画の中から、飛び出て来たかと思う容姿をしている。
「彼は、どんなプレーヤーなんです?」
カイザさんが、再び問いかけた。
「彼は、中盤ならどこでもこなせるし、場合によってはウイングバックやサイドバックも可能だ。だが、彼の真価がもっとも発揮されるポジションは、トップ下だろうな」
「トップ下ですか。ウチが採用する戦術には、無いポジションですね」
「まあ現時点ではそうだが、戦術はスキアビオ監督にお任せするからな。採用する戦術次第で、色々なポジションを出来るヨシュアの存在は、頼もしいモノになるさ」
「わたしは、このチームをトップリーグに導くために、イタリアよりやって来ました。みなさん、安心してくださ~い」
天使のように微笑む、ヨシュア。
「澄ました顔して、コイツもたいがい大言壮語(ビッグマウス)じゃ無いっスか」
「オレはもう、慣れたさ」
「なんスか、それ。さっきから聞いてりゃ……」
「そろそろ、後半が始まる。みんな、行くぞ!」
スバルとヨシュア、新たなる仲間を加えたフルミネスパーダMIEは、更なる強豪チームとなって、後半のピッチに姿をあらわした。
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