チーム力の差
スコアが1-3となり、MIEに対して2点のビハインドを負った、デッドエンド・ボーイズ。
再びセンターサークルにボールをセットし、試合を再開したものの、直ぐに前半終了のホイッスルを鳴らされてしまう。
「煤季 鞍棲(すすき クラス)だっけか。まさか、センターサークルからのセットプレイで、直接狙って来るとはよ」
真新しいベンチに戻って来た紅華さんが、給水ボトルを両手で掲げ、水を口に流し込みながら言った。
「なあ、杜都。あの距離、お前なら狙えたか?」
「自分でも、行けた可能性はあるでありますな」
黒浪さんの質問に答える、筋肉質(マッチョ)なボランチ。
確かに杜都さんのキック力は、凄まじい威力を持っている。
スカウトに行ったときに見たロングキックに、驚いたコトを思い出すな。
「……でありますが、大きく吹かすコトも考えられるでありますし、相手のキーパーにキャッチされていた可能性も高いでありますな」
「そっかあ。そうだよな」
杜都さんや黒浪さんを始め、全員の視線がメタボキーパーに集中した。
「な、なんだよォ! そんな目で、オレを見るなって!」
視線から逃げるように、顔を覆い後ずさりする海馬コーチ。
「せめてキーパーだけでも、とっかえっこしてくれたらね。でも今は、このデブで行くしか無いよ。ウチに、控えのゴールキーパーは居ないね」
海馬コーチと似たような腹の、セルディオス監督が言った。
「マジかよォ。前半だけでもシンドいのに、後半何点取られるコトか……」
「そう言うな、紅華。ディフェンス陣も、頑張っているんだぞ」
汗をタオルで拭きながら、苦言を呈(てい)す雪峰キャプテン。
「そこも問題じゃねェか。みんな守備に振り回されて、バテバテだろ?」
「そこは……否定はできない」
頭脳派の雪峰さんでも、現実を覆(くつがえ)すのは難しいみたい。
「紅華くんの指摘も、かなり的を得ていますね。疲労は集中力を欠如させ、プレイ制度を低下させますから……」
恐らくチームで1番の技術を持つ、柴芭さんも大量の汗をかいていた。
「まッ、シンドいのは確かだな。MIEのカウンター攻撃に、体力持ってかれてるわ」
「ディフェンスラインからも、入れ替わり選手が上がって来てるのもな。陰謀としか……」
「陰謀じゃ無いケドね、龍丸。それでも、エースのバルガを抑えるだけでも、必死なのが現状だよ」
3枚のセンターバックである、野洲田(やすだ)さん、龍丸さん、亜紗梨(あさり)さんが、レッグガードを外し脚を投げ出しながら、苦境を吐露(とろ)する。
「シャクだケド、ここまで地力に差があるってのもな……」
タオルを顔にかけ、芝生に寝っ転がる紅華さん。
ボクも、頭からタオルをかけ、ベンチで落ち込んでいた。
「お前ら、どうした。もう諦める気か?」
タオルの向こうから、誰かの声が聞える。
聞き覚えのある、声だ。
ボクは思わず、顔を上げる。
「く、倉崎さん! き、来てくれたんスか?」
紅華さんも、飛び起きた。
「これでも、このチームのオーナーだからな」
ニッと笑う、サッカー界期待の新星。
「倉崎、よく来たね。チームの方は、ダイジョウブ?」
「ええ、試合が終わったら合流するんで。それより、2点のビハインドですか?」
スコアボードに、目を向ける倉崎さん。
ボクは申しワケなくて、反射的に俯(うつむ)いてしまう。
「顔を上げろ、一馬。俯いていたって、なにも見えないだろ?」
倉崎さんが、言った。
確かに俯いていても、ボクの腿(もも)くらいしか見えない。
「後半、勝ちに行くぞ。他のみんなも、顔を上げろ」
オーナーに言われ、疲弊した顔を上げるデッドエンド・ボーイズの選手たち。
「そりゃ、無理な注文ッスよ。相手は堅守速攻が凄まいし、バルガってストライカーも居やがる」
「カイザってキャプテンがライン統率してるし、キーパーもハンパ無いって言うかさ」
「せやな。認めたくはあらヘンが、勝てる気せェヘンで」
デッドエンド・ボーイズの誇る、3人のドリブラーたちも弱音を吐いた。
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