甘いマスクのキーパー
コイントスに負けボールを選択した、デッドエンド・ボーイズ。
「試合が始まっちまったら、相手が格上だとビビッてたって仕方がねェ。オレのテクニックがどこまで通用するか、試してやるぜ」
テクニカルなドリブラーである紅華さんが、ボールを持ってドリブルを開始した。
フルミネスパーダＭＩＥのワントップストライカーのバルガさんは、紅華さんの真横を素通りして、ボクたちデッドエンド・ボーイズの最終ライン付近まで走って行く。
「ノープレッシャーで、オレを行かせるか。ナメたマネしてくれっぜ」
紅華さんは、得意のシザースでＭＩＥの攻撃的な中盤の選手２人をかわした。
ＭＩＥの鉄壁の布陣にあって、唯一層の薄いポジションだ。
「ここからが、本番ってワケか。開始直後だし、多少は慎重にいかねェとな」
ボールを左に持ち出す、紅華さん。
中央に比べ、ボールを奪われたときのリスクが低いと判断したんだ。
「ボクたちボランチを避け、サイドに流れるのなんて読めているんだよ！」
けれどもネロさんが、猛烈なスピードで紅華さんに迫る。
「うわッ！」
紅華さんを身体ごと吹き飛ばし、強引にボールを奪った。
「コ、コイツ。最初から、ボールに行く気なんて無かったな！」
ボールに行くと言うより、体当たりをしてボールを確保する感じのディフェンスだ。
「フフッ。サッカーってのは年々、格闘技と呼ばれるくらいに、アスリートとしての資質を要求されるスポーツに変化している。キミみたいな中途半端なドリブラーじゃ、通用しないのさ」
ネロさんは奪ったボールを、中央に残ったスッラさんに預ける。
「よし、まずは先制点だ」
セカンドボランチのスッラさんが、美しいロングパスを前線に送った。
「うわあ、いきなりバルガに通っちまったァ！」
海馬コーチが、ゴールネットを背に、情けない声を上げている。
「……」
ボクは、スッラさんからのロングフィードを、ヘディングでカットした。
ボールは、雪峰さんの足元へ転がる。
「ナイスカットだ、一馬！」
雪峰さんも負けじと、得意の正確無比なロングパスを、右サイドを走る黒浪さんに通した。
「うぉ！ キャプテン、スゴいイイとこ出してくれたぜ！」
黒狼が、その絶対的なスピードを使って、ＭＩＥの最終ラインの裏を突く。
「ああ、サイドが抜かれちゃった」
「カイザの率いるオフサイドラインの裏を、取るなんて」
「相手チームは弱いって聞いてたのに、意外にやるな」
雪峰さんがパスを出した時点で、オフサイドラインの内側に居た黒浪さん。
だけど、圧倒的なスピードで最終ラインの裏抜けをして、キーパーと１体の状況でボールを受けるコトに成功したんだ。
「オッシャ、これは決めるぜ！」
迷いなく、シュートを選択する黒浪さん。
キーパーの左脇（わき）を抜く、シュートを放った。
「おっと」
けれどもシュートは、キーパーに難なくキャッチされる。
「な、なにィ！」
せめてファンブルするだろうと思って、詰めていた黒浪さんが、キーパーの真ん前で驚いていた。
「キャー、アグスゥ！」
「ステキよー、サイコー！」
「どんなシュートも、アグスが居ればダイジョウブ！」
女性サポーターたちの黄色い歓声に、ボールを持ってない方の手を挙げて応えるアグスさん。
「アレが、奥多 愛楠（おくた アグス）ね。日本の次代を担うと言われる、優秀なキーパーよ」
ベンチでセルディオス監督が、聞かれてもいないのにベンチメンバーに説明していた。
「よし、行くぞ！」
甘いマスクのゴールキーパーは、パントキックで前線にボールを撃ち出す。
ボールはハーフウェイラインを越えて、直接バルガさんが胸トラップした。
「まるで、正確な迫撃砲みたいでありますな」
雪峰さんが上がったコトで、下がり目にポジショニングしていた杜都さんが、バルガさんからボールを奪おうとチャージに行く。
「è inutile（ムダだ）！」
けれどもバルガさんは、ボクたちの中では最もフィジカルに自信のある、杜都さんのチャージを受けたままドリブルで突き進んで行った。
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