ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第41話

伝統芸能

「雅楽の世界、愉しんでもらえたかの?」
 キララの曲が終わると、ヒカリが再び舞台中央に姿を現す。

「オウ、意外と楽しめたぜ」
「平安時代の音楽なんて、カビが生えてると思ってたケドよ」
「かなり現代風に、アレンジされてんのな」

 ボクも、ヒカリたちが唄い演じた雅楽は、純粋な雅楽とはかなに離れていると感じていた。

「余のおばあちゃんは、雅楽が好きだったのじゃ。子供の頃には、雅楽の舞台に何度も連れて行ってもらっての。余も、自然と興味を持ったのじゃ」

「ですが……残念ながら雅楽は、担い手が枯渇してしまっているのです。雅楽に必要な楽器を造れる職人の方も数人しかおられず、残された方々も高齢になってしまわれました」
 ヒカリの言葉を継ぐ、キララ。

「ウチらが演じる曲は、純粋な雅楽とかけ離れてるのは、承知の上だっちゃ」
「邪道って言う人も居るかもだケド、シンクたちは雅楽の魅力を、多くの人に知ってもらいたいんだ」
 ヒノワとシンクも、その想いを訴えた。

「最後の曲は、録音した音源を使っての4人舞いです」
「邪道中の邪道だケド、雅楽も時間を止めたままじゃダメって思うっちゃ」
「批判されたって、シンクたちは突き進むよォ!」

 それぞれの担当楽器を離れた3人の少女が、黒い着物を脱ぎ捨て舞台中央に集まる。

「さあ、今日最後の舞いぞ。演目は、THO・RI・KA(桃李花)!」
 ヒカリも宣言しながら、黒い着物を脱ぎ捨てた。

 色違いのデザインのアイドル衣装を着た、4人の少女が舞台に集う。
ドームの天井の内側が金色に輝き、桃色の花びらがユラユラと舞い落ちて来た。

「うわ、コレ本物の桜の花びらだ」
「ピンク色だからって、桜とは限らないわよ」
「うん。タブン、桃の花びらだな」

 桃李花の曲名にもなっている通り、桃の花だろう。
無数の桃の花びらが舞う中、少女たちはミニスカートを翻(ひるがえ)しながら、シンクロした4人の舞いを披露した。

「今度のは、かなりアイドル曲っぽいぞ」
「ああ。音源こそ雅楽の楽器だケド、アレンジがかなり現代風だな」
「歌も4人がシンクロしていて、息もピッタリ合ってる」

 金色の天井には、平安絵巻が屏風(びょうぶ)のように映し出され、観客たちを源氏物語の世界にタイムスリップさせる。
ガラスの塔も、五重の塔のようなデザインが投影されていた。

「日本古来の退屈な音楽も、これだけアレンジが効けば聞けなくはないな」
「ボクも正直、雅楽はテンポがスローで、退屈な音楽だと思ってました」
「だがアレンジの無い雅楽は、退屈なままだよ」

「それが大勢の人間の、素直な気持ちなんでしょうね。ですが彼女たちは、平安時代で止まった時の針を、動かしてくれてます」
「伝統の名の元に胡坐(あぐら)を掻いては、ダメだと言うコトか」

「伝統を護るコトは、大切だと思います。ですが雅楽は、元は当時の最先端音楽でした。あらゆる文化圏の音楽を積極的に取り入れ、発展して行ったのです」

「歌舞伎(かぶき)だって、似たような感じだったじゃないか。当時の不良である傾奇者(かぶきもの)が、歌い踊っていたのが歌舞伎のルーツなんだろ?」
「かなり大雑把に言えば、合ってますね」

 一般的に、出雲の阿国(おくに)や、名古屋山三郎を祖とする、歌舞伎。
江戸時代に隆盛を極め、人気役者の浮世絵がプロマイドのように売られ、大どんでん返しのような大がかりな舞台装置まで誕生させた。

「近代では、雅楽も歌舞伎も伝統芸能として、変えちゃいけないモノみたいになってますケド、時の止まってしまった娯楽は、魅力を失うんですね」

「別に、娯楽に限ったコトじゃないさ。教育だって、同じだと思うがね」
 ニヤリと微笑む、久慈樹社長。

「インターネットが発達し、パソコンやスマホやタブレットが普及した時代だ」
「なにも昔ながらの教育のやり方に、固執する必要は無い……と?」

「そうだね。少なくとも、アイツはそう考えていたさ」
 背中を向け、ガラスの塔を見上げる、久慈樹 瑞葉。

 ボクも、時代を変えた寵児(ちょうじ)、倉崎 世叛を想わずにはいられなかった。

 前へ  目次   次へ