それぞれの想い
「アステさま!?」
「アステさまが、攻撃を受けるだなんて……」
ミノ・アステ将軍の側近の少女たちに、衝撃が走った。
「アイツら、大将が攻撃喰らって、動揺してっぜ」
「ああ。やるなら、今だ」
「でも、やるのか?」
相手が12歳くらいの少女とあって、ティンギスら3人の船長は攻撃をためらう。
「このようなザコなど、さっさと屠(ほふ)って、アステさまをお助けせねば」
「遊んでなど、おられん」
「行くぞ、お前たち」
12人の側近たちは、両手の斧で3人の船長を攻撃した。
船長たちは、重装甲の鎧と重厚な盾で何度か防いだものの、次第に追い詰められて行く。
「甘いな。たとえ相手が赤子だろうと、オレなら躊躇(ちゅうちょ)なく殺している」
熱気に満ちた、闘技場(コロシアム)の観客たちに紛れた、マントの男が呟いた。
そんなコロシアムを、遠く窓越しに眺めている2人の少女たち。
空は晴れ渡り、白い積乱雲が海の上をゆっくりと移動している。
「ルスピナ。舞人さんや船長さんたち、だいじょうぶかな?」
ハンターグリーンの髪を、三つ編みに編んで頭の後ろにまとめた少女が、もう1人に問いかけた。
「わ、わたしも心配だよ、ウティカ」
コバルトブルーの髪を、頭の左右から垂らした少女が答える。
2人とも、膝上丈の紺色のワンピースに、フリルの付いた白いエプロン、頭にはホワイトブリムを付けていた。
ウティカは窓を雑巾で拭き、ルスピナは床のモップ掛けをしている。
「わたし達、ここで待っているだけでいいのかな?」
「ど、どうかな。わたし達に、なにが出来るんだろ?」
手を動かしながらも、会話を続ける2人の少女。
「わたし達は、お師匠サマに魔術を教わったわ。なんとか、役立てられないかな」
「いざとなったら、使うべきだと思う。でも、まずなにをするかを、考えないと……」
積極的なウティカに、慎重派のルスピナ。
「そうだね。ウカツに動いて兵隊たちに見つかたら、せっかくかくまってくれた宿のご主人たちに、迷惑がかかっちゃう」
山間(やまあい)の村で育ったウティカは、窓から身を乗り出して、外側からガラスを拭く。
「まずは、情報を集めよう。この宿屋は1階に食堂もあるし、お客さんたちが色々と話してるもの」
海辺の村で育ったルスピナも、モップ掛けは手慣れたモノだった。
「舞人さんたちが、無事かどうかって情報だね」
丘の上にある闘技場から、かすかに聞える歓声を聞きながら、ウティカが返す。
「それもだケド、みんなが無事に戻ったときのために、この国の情報もたくさん集めよう」
「ルスピナ、頭イイ。わかったわ、それに決定」
2人が会話を終える頃には、宿屋の1室はピカピカの状態になっていた。
「ウティカ……舞人さんや船長さんたち、無事だよね?」
「今は、信じるしかないわ」
海辺の街の潮風が、窓の外を見つめる少女たちの頬を撫でる。
2人の少女はしばらくすると、掃除道具を手に次の部屋へと移って行った。
「クッ……このわたしに、土を着けるとは大したモノだな」
闘技場では、女将軍が舞人の前で立ち上がる。
「ミノ・アステ将軍、貴女ではボクに勝てない」
舞人は、顔色1つ変えずに言った。
「フッ。うぬぼれるなよ、小僧が!」
激昂した女将軍は、アステ・リアのらせん状の鞭を舞人に向ける。
「うぬぼれてなど、いませんよ」
舞人は音速を超える鞭を、素手で掴み取った。
「それがうぬぼれだと、言っている!」
鞭に、稲妻のような高圧電流が走る。
「サタナトスや、ヤツが呼び出した魔王どもは、こんな程度の強さじゃなかった」
舞人は、強引に鞭を引っ張った。
「なッ!?」
鞭を手離さなかった女将軍は、急加速で引っ張られて、闘技場の壁に叩きつけられる。
「うわあ、ミノ・アステ将軍がやられちまった!」
「しかも相手は、ただの小僧だぞ!」
「この闘技場で、負けたコトなんて無かったのによォ」
観客席に、悲鳴の様なざわめきが駆け巡った。
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