ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~第13章・50話

アステ・リア

 3人の船長や12人の闘士少女、ルスピナとウティカが眠りに就いた頃。
自ら敗北を宣言した舞人は、闘技場の牢に繋がれていた。

「キサマ、なぜ自ら負けを認めた。わたしに、情けでもかけたつもりかッ!」
 ミノ・アステ将軍の、アステ・リアの鞭が石の床を叩く。

「……そ、そうじゃないです、ミノ・アステ将軍。ボクはこの島に、戦争を止めるためにやって来ました。貴女と戦う目的では、ありません……」

 両手首に付けられた鎖により、両腕を広げるカタチで吊るされた舞人の身体には、ミミズ腫れの傷が無数にあった。
ジェネティキャリパーでの身体強化が無ければ、命すら失っている可能性もあっただろう。

「フッ、ミノ・アステ将軍か。その名も、明日の日の出と共に失うコトとなった」
「……え?」

「おかしいコトでは、あるまい。わたしは、闘技場を埋めた公衆の面前で、キサマに敗北を喫したのだ。いくらキサマが負けを認めようと、その事実は揺るがんよ!」
 女将軍の、美しかった顔は汗や返り血で汚れ、黄金の鎧も酷く傷付いていた。

「そ、そんな。それじゃあ、貴女の名前は……」

「ミノ・ダウルス将軍は、弱者たるわたしをお許しにはならなかった。明日からわたしは、名を持たないただの女となる。王と同じミノの姓を名乗るなど、到底許されぬコトだ」

 獣の様な形相のミノ・アステ将軍が、激しく鞭を振るう。
舞人の流した血だまりには、格子の外の月が映っていた。

「その辺りにしておいてはどうだ、アステ・リア」
 その時、女将軍の鞭の先端が、ある男によって握り止められる。

「なッ、ミノ・テリオス将軍!?」
 驚きを隠せないミノ・アステ将軍の前に、雷光の3将の筆頭が立っていた。

「その少年は、自ら敗北を認めたとは言え、実質的には勝者だ。敗者たるお前に、これ以上鞭を振るう資格はない」

「クッ……わ、わたしは、全てを失ったのだな」
 女将軍がきつく握り締めていた鞭が、牢獄の床に転がった。

「必死に築いて来た名声も、わたしを慕う妹たちも、自分の名さえも……」
 崩れ落ち、ボロボロと涙を流す女将軍。

「どうしてわたしは、女なのだ。かつてわたしは、お前よりも強かった。それなのにィ!」
 両腕で床を叩く、ミノ・アステ将軍。
両腕と床が、血で滲(にじ)んだ。

「すまなかったな、因幡 舞人。わたしが持ち場を離れたせいで、キミを傷付けさせてしまった」
 ミノ・テリオス将軍は、舞人の両腕にはめられた鎖の枷(かせ)を外す。

「あ、貴方と、ミノ・アステ将軍は、もしかして……」
 いつ気を失ってもおかしくない傷の舞人は、テリオス将軍の胸の中で呟いた。

「ああ。わたしと彼女は、幼馴染みだった。とは言え、共に剣闘士として上に這いあがるコトを目指す、仲間の1人に過ぎなかったがね」
 ミノ・テリオス将軍は、舞人を牢獄に備わっていた粗末なベッドに寝かせる。

「幼き頃の彼女は、強かった。わたしや数人の男がかかっても、とうてい倒せないホドにな」
 立ち上がったミノ・テリオス将軍は、床に伏した女将軍に視線を移した。

「だ、だがわたしの強さなど、直ぐに男どもが追い抜いて行った。それでもわたしは必死に喰らい付いて、雷光の3将と呼ばれるまでになれたのだ。お前の隣に、並べると……」

「ミノ・アステ将軍……」
 女将軍がもっとも失いたく無かったのは、テリオス将軍の隣に居られなくなるコトだったのかも知れないと、舞人は思った。

「キミの処分が、正式に決まったよ。アステ・リア」
「かつての名で呼ぶのは、止して。わたしはその名を、剣に封じたのだ」

 女将軍の、鞭へと変化する剣の名が、アステ・リアなのだと思い出す、舞人。

「わたしは成長するにつれ、キミが女であるコトに気付いて行った。少年と大差の無かったキミが美しくなって、数多の男どもの羨望(せんぼう)の眼差しを集めるようになるとは……少年だったわたしは、考えもしなかった」

「フッ、なんのコトはない。お前も、わたしをそんな目で見る、男どもの1人だったと言うコトだな」
「……その通りだよ、アステ・リア」
 あっさりと認めてしまう、ミノ・テリオス将軍。

「……え?」
 驚く女将軍の顔は、あどけなささえ感じられた。

「今日、わたしはミノ・リス王に、キミを下賜(かし)していただくコトを願い出たよ」
「お、お前はまで、わたしを商品のように扱う気か!」

「すまない、アステ・リア。わたしも、お前の美しさに敗れた男の1人だ」
 テリオス将軍は片膝を突き、ミノ・アステ将軍を抱き上げる。

「なッ、なにを!?」
「わたしのモノに、なってくれ……アステ・リア」
 幼馴染みの将軍に迫られ、頬を赤らめるアステ・リア。

「わたしは明日、名も無き女になるのだぞ」
「イヤ、違う。キミはアステ・リアに、戻るのだ。王にも、承諾していただいた」
「どう言うコト?」

「キミに、わたしの妻となって貰う。わたしはキミを、独り占めしたいのだ」
 堂々と言い放つ、ミノ・テリオス将軍。

「フッ、仕方あるまい。敗者に、断る権利など無いのだ。好きにしろ……」
 女将軍は、ゆっくりと目を伏せた。

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