ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第08章・36話

紛糾する作戦会議

「バルザック大佐。やはり、このまま時の魔女の本拠地に向かうのは、無謀ではありませんか?」
 宇宙戦艦の作戦会議室で、メルクリウスさんが提案する。

「キミはかつて、時の魔女と戦ったのだったね。当事者の意見を、軽視はできまい」
 冥界降りの英雄は、人の話を聞く耳を持っていた。

「お言葉ですが、バルザック艦長。我々は、時の魔女の部下による襲撃で、多くの同胞を失ったのです。ここまで来て、引き下がる選択肢はございません」

 紅の軍服を着た女性スタッフが反論すると、宇宙航路の投影されたテーブルを囲む他のスタッフからも、同様の意見が上がる。

「彼女は、副官のポイナと言ってね。我が妻、コリー・アンダーソンの異母妹なのだよ。他の乗組員(クルー)たちも、少なからず肉親を失っている。悪く思わんでくれ」

 間(あいだ)に入って、調停を試みるバルザック艦長。
作戦会議室に、重苦しい空気が流れる。

「もちろん、みなさんの気持ちは理解していますよ。ボクも、火星では多くの同僚を失いました。とつぜん空間を切り裂いて現れた、時の魔女配下であろう無数のアーキテクターによって、彼らの家族も含めおびただしい命が奪われたのです」

 火星における、時の魔女の引き起こした災いの中心は、クーリアだった。
時の魔女に洗脳されていたとは言え、彼女の気高き手が血に染まってしまった事実を思い出すと、いたたまれない気持ちになる。

「メルクリウスさんの仰る通り、時の魔女の超越した力は恐るべきモノです。わたしも魔女の強大な力を、身を持って経験しました。ですが我々は、手を拱(こまね)いていたワケではありません。魔女の力に対抗しうる、戦力を……」

「いいですか、ポイナさん。時の魔女は、空間移動(ワープ)などと言う、SFじみた技術を持っているのです。その気になれば、どこからだって攻撃できるんですよ。さらにはサブスタンサーや戦艦、戦闘機を始めとした兵器を操る能力すらあるんです」

「本当かね、メルクリウス?」
「ええ。その能力には、手を焼きましたよ。ご存じなかったようですね」
 メルクリウスさんの返答を聞いた乗組員一同は、沈黙した。

「ボクも、木星の小惑星帯にある軍事系の企業国家同士の争いに、巻き込まれました。その時も、アキレウスとパトロクロスを主星とした企業国家それぞれの艦隊を、時の魔女は操ってみせたのです」

「報告にあった、アーキテクターの叛乱のコトでしょうか?」
「ええ、ポイナさん。ですが実際には、時の魔女が裏で手を引いていた可能性が高いですよ」
 ボクは、木星圏での出来事を話す。

「我々が乗った探査船は、ワープによって出現した時の魔女の部下によって、壊滅的な打撃を与えらた。よって、時の魔女がワープ能力を有しているコトは、把握していたのだよ」

「……ですが、兵器を操る能力まで有しているだなんて、思ってもみませんでした」
 真紅の軍服を着た女性が、項垂(うなだ)れる。

「オイオイ。話が違うじゃねェかよ、バルザック艦長」
「オレたちは、時の魔女に対抗する戦力が万全と聞いたから、任務を引き受けたんだ」
 若そうな乗組員の何人かが、反発した。

「なにを言っている、お前たち。戦争に、万全などと言う都合の良い言葉など無い」
 ポイナ副官を中心とした乗組員が、声を荒げる。

 会議は紛糾し、方向性は纏(まと)まりそうも無かった。
バルザック艦長の独断で、作戦は再考の余地ありとの理由で延期となり、宇宙戦艦プロセルピナはエリスから進路を変える。

「キミたちには、恥ずかしいところをみせてしまったね」
 艦内の通路を歩きながら、冥界降りの英雄が言った。

「恐らくは、時の魔女の脅威を経験した生き残りの乗組員と、新規に採用された乗組員の軋轢(あつれき)と言ったところでしょう?」
「どんな組織であろうと、人間がやっている以上は仕方の無いコトではあるのだが……」

 その時、艦が激しく揺れる。
うるさい警報音が鳴り響き、赤い照明が点滅して、緊急事態を知らせていた。

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