証明できない世界
「それを、納得しろってのかよ」
「どうやって証明するんだ、カンニングして無いってよォ」
「コンピューターだったら、なんだってできてしまうよな」
ゲリラライブと言う性格上、ユークリッドのアイドルにそこまで興味が無い観客も紛れているようで、素行の悪い客から非難の声が上がった。
「証明なんて、出来ないさ。とくに、キミら頭の悪い人間を相手にはね。ナゼならば、いくら理論を並べ立てたところで、キミらの知性でそれを理解するコトは不可能なのだから」
久慈樹社長の人を見下した顔が、ガラスの塔のパネル全てに映し出される。
「な、なんだとッ!」
「言い返せないからって、負け惜しみを言うな!」
「そうだ、そうだ!」
「ヤレヤレ。今反論したヤツらは、自らバカだと認めたコトになるのだが?」
ゲラゲラと笑う、久慈樹社長。
「まあいいさ。お前らの主張は、正しくはある。誰も全ての存在を、正しいとは証明できない。キミなら、わかるだろう?」
若きオーナーの視線が、いきなりボクに向けられた。
「UFO論者が、宇宙人は地球に来ているとか、オカルトの教祖が、幽霊はいると言う主張を、知識や論理で否定できないのと同じですね」
「ああ。居ないとする証明は、不可能だ。例え証明がなされても、相手がそれを受け入れなければ、なんの意味もないのだからね」
「だったら、オレらの勝ちじゃねェか」
「証明できないんなら、カンニングしてんだよな?」
「AIにテストとか、とんだヤラセだぜ」
「昔から、言うだろう。バカと子供にゃ、勝てやせぬ……ってな」
天使のようにほほ笑む、久慈樹 瑞葉。
「お前たちに、秘密を教えてやろう。実は、あの有名な特撮ヒーローは、実在している。特撮などと言うのはウソで、ボクらの知らない場所で、本当に悪の秘密結社と戦っているのだよ」
「あ、なに言ってんだ」
「そんなワケ、あるか!」
「だったら、証明して見せてくれたまえよ。もっとも、例え論理的に証明したとしても、ボクはそれを受け入れる気は無いがね」
久慈樹社長は、かなり手間をかけた意趣返しをした。
「世界5分前仮説ですか。確かに、宇宙が5分前から始まっていたと言う主張すらも、誰も間違っているとは証明できませんからね」
「な、なんでだよ!」
「お前、先生だろ。いくらなんでも、それはねェぜ」
ボクの発言にも、観客席から反論が起きる。
「だから洗脳されているんですよ、ボクたちは。宇宙が138億年前からずっと続いていると思わされていて、人類に長い歴史があると思わされていて、自分が人間だと信じさせられている。でも間違いなく、宇宙の歴史は5分前から始まったんです」
「だ、だから、そんなワケねェだろうが!」
「頭、おかしいだろ?」
「証明できますか?」
ボクはいつの間にか、久慈樹社長の尖兵に成り下がっていた。
「だ、だから、違うモンは違うんだよ」
「宇宙が5分前から始まってたら、オレは……て、そう洗脳されてんのか?」
「えっと、だったらどうやって、証明すりゃイイんだ?」
「キミらの使ったやり方が、正解なのだよ」
久慈樹社長が、大きく両手を広げた。
「理論が通じない人間に、理論で相手をしてもラチが明かない。相手をせず、強引に押し切る!」
ステージに真っ白な花火が上がり、ドライアイスのスモークから、ミク、フウカ、ミライの3人のアイドルが飛び出す。
「レアラとピオラの2人は、完全に世界サーバーのシステムから切り離して、ここに居る彼を始めとしたユークリッドの教師陣から得た知識のみで、テストを受ける。これは、紛れも無い真実だ」
「あ、だからそん……」
「信じら……ね……」
「オイ、こん……」
ドーム会場のあちこちに配されたスピーカーから、耳をつんざく爆音が放たれ、反論の声を完全にかき消した。
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