ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第08章・第61話

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金と正義

 空中に浮かぶ十字架の魔物に、磔にされたカトル。
すでに意識はなく、魔物の身体から伸びた無数の節手が、カトルを切り刻んでいるように見える。

「ホ、ホントに、大丈夫なの、先生!?」
「魔物がまるで、手術台みたいなのですゥ!」

 今度は魔物から、無数の管がカトルの身体へと伸び、管の中にはケミカルな怪しい液体が流れ始めた。

「そ、そう言われると……な。頼むから、過剰極まりない演出であってくれ!」
 ボクは祈る気持ちで、空を舞い歌い続けるレアラとピオラを目で追う。

 その間にも2人の曲、『デビルズ・サージュリィ』が、会場中の観客を魅了していた。

「こんな状況で、よく盛り上がっていられるわね」
「それは、当然だろう。ほとんどの観客は、ただの演出だと思っているのだから。実際にその可能性も高いし、そうあって欲しいモノだがね」

「アンタ、本気でそう思ってるんでしょうね!」
「もちろんだとも。もし彼女が死んでしまったら、面倒なコトになるのはこのボクだ」

 それでも久慈樹社長の顔は、どこかほくそ笑んでいるように見える。

「チョットチョット、手術台から血が流れて来たよ!」
「ホントなのです。魔物から血が、ゆっくりと流れ落ちてるですゥ!」

「ど、どうすんのよ、アンタ。こんな危険な茶番、さっさと止めさせなさいよ!」
「落ち着きたまえよ。本物の血が、あんなにゆっくりと垂れ落ちるコトは無いだろう?」

「だ、だけど、カトルの心臓は、ホントに悪いんでしょう!?」
 ユミアが、泣きそうな顔で久慈樹社長を睨む。

「それは確かだね。彼女の心臓と大動脈との結合部には、交通事故のときに入った金属片があって、軽度の運動ですら危険極まりない状況に陥る可能性もあるらしい」

「その金属片は、取り除くことはできないんですか?」
「それこそ心臓を移植した方が、手っ取り早いレベルだそうだ」

「2人は、心臓移植の手術費用を捻出するために、アンタの命令で天空教室に加わったのよね。だったら、アンタが費用を肩代わりしてあげたら?」

「そんな義理は無いさ。この世の中には、心臓移植を待ち望んでいる人間は大勢いる。別に親しくもない2人に職を提供しただけでも、感謝されるべきだろう?」

「だったら、わたしのお金を使って。わたしはもう、2人とは寝食を共にする仲よ。カトルの命が助かるのなら、お金なんて惜しくはないわ!」

「了解した。ただし、彼女の手術は確実に成功するとは限らない」
「……えッ!?」
 ユミアの顔が、蒼ざめる。

「心臓を、丸ごと取り替えるんだ。危険じゃないワケが、ないだろう」
 手術台となった魔物から流れ出た血は、メインステージまで達していた。

「場合によっては、手術などしなかった方が長生きできる可能性もある」
「でも2人は……手術するコトを選択して、天空教室の一員になったんですよね?」
 ユミアに加勢して、必死に食い下がるボク。

「なんで2人が、そんな重大な決断をしなくちゃならないのよ。悪いのは、交通事故を起こした加害者の方でしょ!」
 ユミアは、顔を真っ赤にして怒っている。

「言っただろう。加害者の親は当時、教育民営化法案を推進していた有力議員さ。両親を失った幼い子供と、剛腕な政治家……果たしてどちらが、有能な弁護士を付けられると思う?」

「そ、それは……」
「世の中は金さ。2人を預かった親類は、金によって控訴を取り下げた」

「で、でも、手術費用はどうなったの?」
「当初は、症状も無かったようだからね。だが契約に含まれていないとは言え、僅かな口止め料は受け取ったらしい。もちろん、親類が着服したのは明白だがね」

「なんて酷い……」
「幼い子供を2人も育てるのは、大変なコトだ。一概には、非難できない」
 ボクはそう言って、ユミアの肩に手をかける。

「先生……!」
 栗色の髪の少女は、ボクの懐(ふところ)で悔しそうに泣いた。

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