ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~第12章・17話

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血塗られた人間の歴史

 優美に整備された都市、アト・ラティア。
街を行き交う人々の顔には笑顔が溢れ、高度な文明社会を謳歌している。

「伝説の理想郷だったって噂は、真実だったのか」
 舞人は、自分が育った小さな地方都市を、思い出していた。

「ニャ・ヤーゴの街なんか、比べものにならないくらいに発展している……」
 ヤホーネスの地方都市、ニャ・ヤーゴの丘の上にある古びた教会で、孤児として育った舞人。

 教会には豪華なものは何もなく、代わりに貧しさだけはそこら中にある暮らし。
それに比べ、アト・ラティアの街はあらゆる豪奢な物が揃い、代わりに貧困など何処にも見当たらない。
彼の目には、1万年前の街は人類の理想郷に映った。

『今見ているのは、過去の映像(ビジョン)です。アト・ラティアは科学技術を発展させ、高度な文明を築き上げました。人間は自然を支配し、食料や物資を安定的に供給可能とし、洗練された医療技術で長寿を得たのです』

 ココア色の肌の天使は、無表情なまま話を進める。

「こんなに素晴らしい街が、1万年も昔にあったなんて。でもどうして、アト・ラティアは滅んだんだ。ここまで優れた文明が、なんで海溝の底に街を沈める必要があった?」

『戦争です。高度な科学力を持った人間たちは、互いに争いを始めたのです』
「強大な力を持った者同士が、互いに争った……と?」

 舞人の周りの蒼い空から、突如として円筒形の物体が無数に飛来する。

「な、なにが、起きたんだ!?」
 地面に接したそれらは、激しい炎を噴き上げ美しい街並みを飲み込んだ。

『アト・ラティアの人間は、この惑星を何度も壊滅させられるだけの科学力を持っておりました。全てを焼き尽くす超兵器を支配下に置いた王族と、超兵器を開発した科学者との間に溝が生まれ、やがて戦争へと発展して行ったのです』

 舞人の見ている景色が、赤く染まる。

「……そ、それで、どうなったんだ!?」
『互いに強すぎる力を使った人間たちは、次々に死んで行きました。何度かの平和は存在したものの、最終的に滅びの道を歩んだのです』

 笑顔で話していた女性たちも、通りで無邪気に遊んでいた子供たちも、互いの権力者が使った炎の災禍に飲み込まれ焼かれた。

「あれだけの科学を持って繁栄していたのに、どうして互いに争う必要があったんだ!?」
『解りません。その答えに答えられるのは、アナタたち人間たちだけでしょう?』
 パテラは、質問を舞人に投げ返す。

「に、人間が……確かに今の時代でも、戦争は絶えない……だけど!」
 蒼き髪の勇者は、自身の見聞きした人の歴史を鑑(かんが)みる。
魔王や魔物との戦闘もあったが、多くは人間同士の戦争に血塗られていた。

「お、お前たち重機構天使(メタリエル)は、誰に創られたんだ?」
『わたし達は、アト・ラティアの科学者たちによって創られました。目的は、アト・ラティアの王族を守護するためです』

「王族だけ……民たちは護らなかったのか?」
『そうです。民を護るには、数が多過ぎるのです』

「随分と、身勝手な理由だな。王族は、自分たちだけが助かればそれでいいのか!」
『人間とは、そう言う生き物でしょう』

 舞人の目に映る世界では、金属の巨人たちに追われ、逃げ惑う民たちが次々と死んで行く。
炎に包まれた街の上空では、何体もの重機構天使たちが飛び交っていた。

『権力者かどうかに関わらず、身近な者たちの命を尊ぶのはむしろ当然ではありませんか。権力者だからと言って、それをするなと言うのはエゴでしょう』

「そ、それは……」
 余りに合理的なパテラの主張に、反論ができない舞人。

 彼自身も、幼馴染みの少女の命を重要視し、憧れた赤毛の英雄の死を嘆き悲しんだ。
けれども王都で死んだ大勢の命に、同様の悲しみを捧げたのかと言えば答えは違う。

『王族と科学者たちは、互いに有り余る科学の兵器をもって戦い、数多くの民を死に至らしめました。僅かに生き残った民も、束の間の命となったのです。』
「ど、どうしてだ!?」

『王族は、かつて科学者たちに作らせた、人間を魔族に変える剣を、民に向けて振るったのです。王族は、魔王や魔族の軍団を手に入れました』

「それが……サタナトスの剣、『プート・サタナティス』なのか!?」

『そうです……』
 幼馴染みと似た顔の重機構天使は、冷酷に言い放った。

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