古代戦争
舞人の周りのビジョンが、王の間へと切り替わる。
王らしき男の前には、国民であろう大勢の人々が、拘束された状態で並べられていた。
「ま、まさか……やめろォ!」
舞人は必死に叫ぶが、時を超えた過去の映像には影響を及ぼせない。
王であろう男は、サタナトスの持っていたモノと同じ剣を、民に向かって振り降ろした。
『グウ……ガアア!』
『ギャアアーーーーッ!』
激痛に悶えながら、切られた民が次々に魔物へと変化し出す。
揺らぐ炎の向こうに、蠢(うごめ)く無数の怪物たち。
魔物へと変貌を遂げた民たちは、科学者側の陣営であろう街を次々に火の海にして行った。
『これが覇王剣の、本来あるべき真の能力なのです』
相変わらず、顔色1つ変えないパテラ。
「それじゃあサタナトスはまだ、プート・サタナティスの能力を発揮できていないって言うのか!?」
『はい。彼は、覇王剣を扱う資格はあるものの、完全に剣の信頼を勝ち得たワケではありません』
「まるで、剣に意思があるみたいな言い方だな」
『覇王剣は、わたし達重機構天使(メタリエル)と同様、意志をもっております。ただ人型ではなく、意志の疎通は出来ないと言うだけに過ぎません」
剣に意思があると知った舞人は、自分の剣の素性も気になる。
「ボクの剣は……どうなんだ?」
『どうと、言われますと?』
「ボクのジェネティキャリパーも、サタナトスの剣と同様に意志を持っているのか?」
『貴方の持つ剣は、恐らく聖王の剣』
「聖王の……剣?」
聖王という呼び名と、剣から感じる禍々しい闇の力とのギャップに、違和感を感じる舞人。
『まずは、聖王剣の成り立ちを説明しましょう。聖王剣は、覇王剣や重機構天使(メタリエル)を生み出した科学者たちが創り出しました。けれども為政者のためではなく、王の暴走を食い止める力として生まれたのです』
周りのビジョンが、科学者たちによる、剣の開発現場へと切り替わる。
王の魔の手が伸びようとする中で、科学者のグループは聖王剣の調整に勤(いそ)しんでいた。
『科学者たちがどの様な剣を生み出したか、正確な情報はありません。重機構天使は、聖王剣が生み出される前に、全ての個体が完成していたからです。その後、王族と科学者の間に生じていた軋轢(あつれき)が原因で、激しい交戦状態となりました』
「そ、それじゃあ……」
『敵対してしまった科学者たちが生み出した貴方の剣が、意志を持っていたかは解りません。そして戦いは、破滅へと向って行ったのです……』
王と科学者たちの黒いシルエットが、影絵芝居のように戦いを繰り広げる。
互いの本拠地であった街を、海中へと沈めて防御を図る両陣営。
けれども互いの強すぎた攻撃は、それすらをも容易に突破して見せた。
「どうしてこんな悲劇が、起きてしまったんだ!」
『少なくとも、人間の歴史は戦争の歴史でもあるのです』
パテラが、舞人の首筋から手を離す。
「……え?」
急に、現実世界へと引き戻される舞人。
「どうしたのじゃ、ご主人さまよ?」
「ボーっと、しちゃってさ」
周りには、ルーシェリアやスプラら、見慣れた顔が並んでいた。
「それより、アト・ラティアに関する知識を、聞き出して貰いたいのだが……」
知的探求心を抑えきれないのか、シドンが要求する。
「そうじゃったな、まずは何から問えば良いかの?」
「う~ん、まずは歴史や地理とかかな?」
「実は……その……もう終わってるんだ」
ルーシェリアとスプラの問いに、申しワケ無さそうに答える舞人。
「終わっているとは、なにがじゃ?」
「そうだよ、ダーリン。なにが終わってるの?」
「アト・ラティアの歴史とか地理とか、王族と科学者の戦争の経緯や、ボクとサタナトスの剣がどうやって創られたか、もう体験してるんだよ」
それは、パテラが舞人の首筋を触った瞬間、伝わっていたのだ。
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