脱獄者(プリズナー)
「悪いんだが、お前さんも武器を拾って戦ってくれねェか?」
大勢のアーキテクターを相手にしている、ギムレットさんが言った。
「は、はい」
ゼーレシオンでの宇宙戦で場慣れしていたのか、ボクは銃器を拾って別方向から来た敵を迎え撃つ。
「意外に、すんなり当たってくれますね」
「相手はロクにメンテもされてねェ、錆びだらけの木偶(デク)人形だ。自慢にゃ、ならんぜ」
確かに、明らかに動きが鈍い。
中には、歩くことさえままならない機体もいる。
「このまま、中央制御センターに雪崩れ込む。準備はいいな」
「はい!」
脂汗を垂らしながら、ボクはギムレットさんの背中を追った。
「兵士に、思考は必要ないっていうケド……こう言うコトかな?」
たった1発の銃撃でも当たれば、死んでしまう戦場。
無慈悲なまでのクソゲーにあって、思考など邪魔でしか無いのかも知れない。
「中央制御センターともなると、簡単にはハッキングできねェ。銃撃の嵐の中じゃ、そんなヒマも無いだろうしな」
「それで、どうするんです?」
「破壊する」
答えは、単純で明解だった。
背の高い黒人は、腕のコンピューターで近くのアーキテクターを同士討ちさせた後、床に倒れ込むようにして中央制御センターのモニターパネルを撃ち抜く。
すると、中に居たアーキテクターの持つ銃が、ギムレットさんに向けられた。
「あ、危ない!」
咄嗟にエイム(照準)を合わせ、3体のアーキテクターを撃ち抜くボク。
「ヒュゥ、やるじゃねェか、アンタ」
「毎日自室に引き籠って、FPSでエイムの練習をしていた成果が、まさかこんな形で役立つとは思いませんでしたよ」
それからボクたちは、アーキテクターを処理しながら中央制御センターの機能を停止させた。
「な、なんとかなりましたね」
「ああ、だがまだ女性囚人棟には、警備用のアーキテクターが残っている。油断するなよ」
「は、はい」
ボクたちはオーバーヒート気味の銃を放り投げ、倒れたアーキテクターたちから銃器を回収すると、黒乃ことミネルヴァさんの収監されているであろう、女性囚人棟に向かった。
「マズいな、入口付近に陣地を作ってやがる」
「どうしますか?」
「まずは、同士討ちを……なに?」
「な、なにかあったんですか?」
「ヤツら、オレの使っている周波数からのハッキングを、ブロックしやがった」
「そ、それじゃあ……」
「いくら骨董品のポンコツでも、新たなセキュリティホールを見つけてるヒマはねェ」
「自力で、突破するしか無いってコトですか?」
「そうなるな。アン時もそうだったが、ヤレヤレだ」
「え……前にもこんなコトが、あったんですか?」
するとギムレットさんに、苦い顔をされる。
「質問責めは、よしてくれ。何十年か前に、今と同じく脱獄を手伝ったコトがあってな。そん時ゃ、ソイツが逃げるだけだったんだが、流石に苦労はさせられたぜ」
「脱獄に関わって、よく無事でいられましたね」
「まあな。人権だのうるさいヤツらが騒ぎ立てたお陰で、今の地球では死刑は配されている。良いかどうかは、別としてな」
「それじゃ、黒乃も死刑にはされない?」
「ま、表向きだがよ。囚人同士のイザコザとか、事故や病気とか、亡きモノにできる手段なんざいくらだってあるってこった」
「だからその人も、脱獄を企てたんですね。どうやって、成功させたんですか?」
「容赦なく質問しやがる。アイツのときは、優秀なアーキテクターが味方に付いてくれたからな。ここのポンコツなアーキテクターなんざ、一瞬で制圧しちまったよ」
「そうですか……」
結局のところ、2人でどうにかするしかない。
けれども、ポンコツなアーキテクターたちが構築した陣地は、強固で抜けなかった。
「まったく……プリズナーの野郎も、今頃どこで何してやがるのやら……」
ボクの後ろで小声でボヤく、長身の黒人。
「え、今なんと?」
「あ、ただの愚痴だよ。オレが苦労して、脱獄させてやったヤツの話さ」
ギムレットは、確かに『プリズナー』の名を口にした。
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