アインとジーク
「このアインって人も、メッチャ美形だよね。科学者だって言うし、頭も良いんだろうな~」
すでに幼馴染みが居なくなったコトなど、忘れてしまった奈央。
今度はテレビに映る、有夢 藍韻(あるむ アイン)に見惚れていた。
『ヒルデ、選手紹介はキミの方からしてくれ。わたしには、今考えるべきアイデアがある』
『またそんなコト言って。記者会見のときくらい、研究のコトは忘れなさいよ』
オーナーの、武柳 ヒルデ(ぶりゅう ヒルデ)から注意を受けるアイン。
『オーナー、それは無理と言うものだ。わたしが研究を忘れるのは、せいぜい歌っているか、サッカーをしている時くらいだからな』
アインは椅子に深く腰掛け、ため息を吐き出した。
『そんなコトを、威張って言わないで下さい。仕方ないですね。では他の選手も、わたくしから紹介させていただきます』
不愛想なアインに対し、ヒルデは記者たちに愛想を振りまく。
『続きましてウチのエースストライカー、柴繰 蒔郁(しぐる ジーク)です』
ヒルデが伸ばした腕の先には、長髪の美男子が座っていた。
『ジークだ。得点に関しちゃ、少しばかり脚に覚えがあるぜ』
腕を組み、自信に満ちた表情で、記者席を見回すジーク。
『ジークさん。貴方は一昨年まで、オーストリアリーグを経験されてましたよね?』
『ヨーロッパで活躍されていたなんて、凄いじゃないですか!』
「え、そうなのか、倉崎さん?」
テレビに映った記者の質問を、クロナミが問いかけた。
「そうだな。柴繰 蒔郁は、3年契約でオーストリアの2部チームに移籍した。1年目の最初はそこそこ活躍をして、5得点を挙げたんだ」
「なんだよ、たった5点か」
「あのなあ、駄犬。ヨーロッパリーグってのはよ。地域リーグのウチらのレベルとは、比べものにならないくらい高いんだよ!」
クレハナが、クロナミの軽口を指摘する。
「でも、オーストラリアって、サッカー上手いのかよ?」
「オーストラリアでは無く、オーストリアです。確かにヨーロッパでは、1流のリーグとまでは言えませんが、玄人好みの選手が多く在籍しているのは確かですよ」
「柴芭の言う通りだ。だがジークは、最初こそ好調に見えたものの、ケガもあって次第に出番を失い、2年目にはベンチにすら入れない有り様だった。そして今年チームは、彼を手放したんだ」
「なるホド。ジーク氏が、フリー(自由契約)になっていたところを、ウィッセンシャフトGIFUが、上手く契約にこぎつけたんですね?」
「憶測にはなるが、そんなところだろうな、雪峰」
応接室に揃ったデッドエンド・ボーイズのメンバーは、ロランも含めて再びテレビに視線を合わせる。
『オレが活躍できなかったのは、監督がオレを使わなかったからだ。あのまま使ってくれてりゃ、チームも2部落ちせずに済んだハズだぜ』
ヨーロッパ帰りの男は、足を組み横柄に振る舞う。
『それは不運でしたね。アナタが、日本に帰国した理由は……』
『監督の起用法に、問題があったからなんですね?』
素人揃いの記者席から、同情の声が漏れた。
『それは、無いと思いますよ』
『な、なんだと……テメェ!?』
思わず立ち上がる、ジーク。
その視線の先には、アインが涼しい顔で座っていた。
『わたしの見立てでは、あなたにはスピードもアイデアもテクニックも足りない。一定のパターンにハマれば、得点を量産できる可能性もありますが、オーストリアリーグのディフェンス陣は、そんなに甘くは無かったでしょう?』
『そ、それは……だがな、アイン。最初は確かに、点を取れていたんだ!』
『最初だけでしょう。パターンさえ見破られれば、貴方ほど止めやすいストライカーは居ない。よって監督は、オーストリア人のFWを使い始めた』
『だからヘボ監督だって、言ってんだ。2部落ちしてりゃあ、世話無いぜ!』
『チームが2部落ちしたのは、正キーパーのケガでディフェンス陣が弱体化したためです。貴方の替わりのオーストリア人ストライカーは、点を決めていたでしょう?』
『さっきから聞いてりゃ、偉そうな御託を並べやがって。年下のクセして、生意気なんだよ、アイン。テメーの理論なんざ、それこそ机上の空論じゃねェか!!』
語気を荒げる、ジーク。
『貴方に言われるまでも無く、そんなコトは解ってます。理論は、実践し証明されてこそ意味がある』
クールなメガネの男は、表情1つ動かさずに言い放った。
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