新たなる強敵
「なあなあ、倉崎さん。コイツら、記者会見場でケンカ始めちゃったぜ」
応接室で皆と一緒にテレビを見ていた、クロナミが言った。
「彼らもプロだ。皆それぞれ、自分なりのプライドを持っている。意見がぶつかるコトもあるさ」
ロランの肩に腕をかけたまま、倉崎が答える。
『面白れぇ、そこまで言うのであれば、お前の理論とやらをピッチで証明して貰おうじゃねェか!』
記者会見場で、ジークが怒鳴った。
「フウ、もちろんその予定ですよ。まあ、監督次第と言ったところですが。あのヨハン・クライフの言葉にも、自分を使ってくれる監督が、もっとも素晴らしい監督だ……と、ありますからね』
アインは表情を変えず、論理的に切り返す。
ざわつく会場の喧騒に、意識を取り戻しかける男が居た。
……ン、誰かの怒鳴り声が、聞こえるような?
余りの出来事に、気を失いかけていた一馬は、正気を取り戻す。
目の前には、ズラリと並んだカメラマンたちが、手にしたデジカメのフラッシュを輝かせていた。
左右には、同じユニホームを着た選手が並んでいる。
その向こうで、違うユニホームの選手が2人、言い争いをしていた。
ア、アレェ、ボクはどうして、こんなところに!?
夢、そうだ夢だ……そうに決まっている!
自分にとって都合の良い解釈を並べてみたものの、一向に夢から覚める気配はなかった。
『Oh Mann! チョット、止めなさい、貴方たち。ここは記者会見場なのよ。言い争いなら、クラブに帰ってからやって!』
チームオーナーである武柳 ヒルデ(ぶりゅう ヒルデ)が、慌てて調停に乗り出す。
『しゃ~ねェだろ。コイツが、スピードが無ェとか、テクニックが無ェとか、舐めた口利くからよ!』
『事実を述べたまでです。実際に貴方が得点を取れていたのは、中盤に優秀な選手が揃っていたZeリーグ時代が主でしょう。貴方は、自ら得点機を生み出せるフォワードでは無い。にも関わらず……』
『黙れっつってんだよ、アイン。どんなカタチだろうが、点を取れば良いんだろ。フォワードの価値は、他に無ェからな!』
『それも、間違っています。近代サッカーに置けるフォワードの役割りは、何も得点だけとは限らない。前線からプレスをかけ、攻撃に転じる相手ディフェンスのパスコースを切ったり、ときには最終ラインに戻って守備をする必要すら……』
『フォワードが、ディフェンスまでやってられっか。まったく、話にならねえ!』
顔を真っ赤にしたジークは、椅子を弾き飛ばしながら立ち上がると、記者会見場からズカズカと出て行ってしまった。
『ああ、もう。ジークったら、プライド高いんだから。アイン、貴方も口を開いたかと思えば……理詰めで相手を屈服させるのは、よしなさい!』
『申し訳ない、ヒルデ。わたしの悪い癖でね』
アインは、ヒルデと視線も合わせずに謝罪する。
『まあまあ、ヒルデ君。そろそろ他の選手も、紹介してくれないか』
「Entschuldigung(申しワケありません)、日高オーナー。では改めて、1FC(エルストエフツェー)ウィッセンシャフトGIFUの、主要選手を紹介させていただきます』
日高オーナーの助け船もあって、気を取り直すヒルデ。
『ディフェンスラインの指揮者(コンダクター)、塀塔 嵐斗(べいとう ラント)選手。そして、ドイツ人の芸術的ボランチ、フランツ・メンデルスゾーン選手です』
フラッシュが焚かれ、2人の選手が会釈する。
「クルクルした頭のが、ラントってヤツか?』
「そうみてーだが、なんでお前、頭で識別してんだ?」
「だって、わかりやすいジャンか、ピンク頭」
クロナミが言い切ると、ピンク頭と言われたクレハナは苦笑いを浮かべた。
「そして、もう1人がメンデルスゾーンですか。随分と、若い選手みたいですね」
シバが感想を述べると、それに対しテレビの中のヒルデが都合よく答える。
『メンデルスゾーン選手は、ドイツのユース代表の選手です。招来は、ドイツ代表の要になると、期待されているんですよ』
「柴芭。どうせなら、大した選手じゃないって言わせてくれよ」
「フッ、残念ですが、現実は厳しいようです」
デッドエンド・ボーイズの前に、新たなる強敵が現れた。
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