ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第07章・15話

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永遠の命

 黒いスーツや純白の下着が、彼女の周りに落ちている。

「き、綺麗だ……」
 ボクの口は、勝手に言葉を紡いだ。

 マネキンのような、完璧なプロポーションの白い身体。
豊満な胸元や大きなお尻には、長い漆黒のクワトロテールが垂れる。
とても200歳を超えている女性とは、思えなかった。

「まるでホントに、キミは……」
 カプセルの前に立つ、全裸の女性。
脱ぎ捨てられた衣類に、揺れるクワトロテール。

「黒乃……」
 目の前の光景はかつて、忘れられた廃鉱の奥深くで体験した光景と、ソックリだった。

「これでも、女なのですよ。少しは、気を遣っていただけませんか?」
「うわぁ、すいません!」
 ボクは、慌てて後ろを向く。

 しばらくすると、なにかの駆動音が聞こえた。
恐らくは、カプセルの蓋の開いた音だろう。

「それでは、ミネルヴァ様。蓋を締めますね」
 ニケーさんの声の後、再び駆動音がした。

「もう、振り返って大丈夫ですよ」
「そ、そうですか?」

 恐る恐る、カプセルの方を見るボク。
ミネルヴァさんの身体は、既にカプセルの中へと、納まってしまったらしい。

「このカプセルを使って、ミネルヴァさんは何をしようとしているのですか?」
「解りませんか。女性が、永遠に望むモノです」

「女性が……永遠に?」
 当然、ピンと来ない。
1000年前まで家に引き込めっていたボクにとって、女性の気持ちなど理解し得るハズが無い。

「若さですよ、宇宙斗様」
 クスリと微笑む、純白の髪の少女。

「このアンチエージング・カプセルは、特殊な活性化酵素とナノマシーンのはたらきによって、入った者の身体を若返らせるコトが可能なのです」
「それって、本当に若返るって意味ですか?」

「はい。少なくとも肉体レベルでは、恒久的に若さを保つコトは可能でしょう」
「それじゃあ人間は、永遠の命を手に入れていたと?」

「宇宙斗様は、どう思いますか?」
 ニケ―さんに、質問を質問で返される。
少なくともその場合、質問の正解が答えなのだ。

「そうですね。少なくとも人類全体が永遠の命を手に入れているのなら、今の太陽系は人で溢れ返っているんじゃないですか。もしくは、永遠の命を手に入れられるのは、ごく1部の人間とか?」

「太陽系は人で、溢れ返ってますよ。アクロポリスの街だけでも、120億の人口を抱えているんです」
「数字だけ聞いてピンと来なかったんですが、考えて見ればスゴいコトですよね」
 どうやらボクの答えは、不正解だったらしい。

「このヴィクトリアも、コロニー全体の人口は70億です」
「そこまでの人口を、コロニーの生産力だけで養えるモノなのですか?」


「ヴィクトリアは旧型コロニーですが、連なるドーナツ型セクションの幾つかが、農業プラントになっているんです。ケレース様の、直轄ではありますが」
「ケーレスさんか。確か、食料の生産・管理の代表だったよね」

「今の時代、飢えはありません。生きようと思えば、事故や未知の病気、あるいは戦争でも起こらない限り、人間は半永久的に生きられるハズです」

「でも、生き永らえるコトを放棄した人も、居るってコト?」
「実は大半の人が、永遠に生きるコトを放棄しているんです」
 ニケーの答えに、ボクは衝撃を受けた。

「ど、どうしてですか?」

「宇宙斗様は、永遠に生きていたいですか?」
 スカイブルーの瞳が、ボクを見つめている。

「……」
 ボクは、答えに窮した。

 引き籠りだったボクは、自分の部屋という狭い世界の中ではあったが、ゲームをしたりアニメを見たりと、それなりにやりたいコトはできていた。
けれども、それを永遠に続けたかったのかと言えば、答えは『ノー』だろう。

「理由は、様々です。倫理観や、自分の信じる宗教に反すると言うモノが多いですが、実際に永遠に生きるというのは、かなりの精神力が要るモノなのですよ」

 ユノーさんの言葉と同時に、カプセルの蓋が開いた。
ドライアイスであろう冷気が瀧のように流れ、中から少女が現れる。

「……またこの世界を……生きなければならないのね……」
 中から現れたミネルヴァさんは、時澤 黒乃そのものだった。

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