ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第07章・44話

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星の髪飾り

「く、黒乃!?」
 突然、吐血をした時澤 黒乃。
黒い雨に含まれる放射能の影響であるコトは、解り切っていた。

「どうやら、わたしはここまでのようです……」
「なにを弱気なコトを、言っているんだ、黒乃。この窮地さえ乗り越えれば、未来の医療技術がいくらでもキミを回復してくれるハズだろう!」

 励ます台詞を吐いたが、腕に抱いた彼女は酷く衰弱している。
自慢の美しいクワトロテールの1本が、髪飾りが外れて散らばってしまっていた。

「宇宙斗……いいえ、宇宙斗艦長。もう、名を偽るのは止しましょう」
 ミネルヴァさんは、黒乃であるコトに自ら終止符を打つ。

「わかったよ、ミネルヴァさん。でも、死んじゃダメだ」
 ボクは、胸元から髪飾りを取り出した。

「それは……?」
「キミが名乗っていた女性の、形見だよ」
 フォボスの採掘プラントの底で眠っている、少女の髪を結んでいた遺品でもある。

 たまたま手にしたのは、星のカタチの髪飾りだった。
ボクは形見の髪飾りを使って、ミネルヴァさんの解けたクワトロテールの1本を結わえ直す。

「わたしにも直ぐに、必要がなくなってしまうでしょう」
「だから、そんなコトはさせない。ボクがキミを、護るから!」

 ボクは、ゼーレシオンと同化した。
コックピットでのミネルヴァさんの、衰弱した身体の感触は消え、巨神の視点が脳裏に映る。
ゲームセンターの3D筐体のように、目の前から無数の触手や1つ目の巨人が襲い掛かって来た。

「地球に艦長を連れて来た目的を、話して置かねばなりません。戦いながら、どうか聞いて下さい」
 弱々しい声で命令する、ミネルヴァさん。
容赦なく襲って来るゲーやウーに対処するため、ボクはその命令を履行せざるを得なかった。

「目的の1つは、艦長に現在(いま)の地球の現状を見せるコトです」
「それはもう、イヤと言うホド見せて貰ったさ」

「いいえ。地球の現状は、こんな表面的なモノばかりではありません。かつての利権や権力にしがみ付く老人が、未だにこの地球を支配しているのです。そして彼らは、ゲーやウーの支配を絶対的なモノとしているのです」

 猛威を振るう、原初の神々の名を冠した2体の怪物。
天空を象徴するウーは、黒い雲から幾筋もの竜巻を発生させてゼーレシオンに攻撃を仕掛けて来る。
大地の女神であるゲーの生み出した1つ目巨人たちも、群れを成して襲って来た。

「古い時代のコンピューターに、自分たちの未来を委ねたのか。滑稽な話だな」
「彼ら老人は、ゲーやウーは常にバージョンアップされて、最新の状態を保っていると思い込んでいるのです。人が生み出した最高の知性が、人類を正しく導くのだと……」

「自分で考えるのを、止めたってだけじゃないか。今、コイツらが襲いかかって来る理由だって、自分たちの古びた考えを正そうとする者を、排除しているだけだろう!」

 ボクの怒りを込めたフラガラッハが、巨人の何体かを斬り倒す。
3方向から迫って来た竜巻も、ブリューナグを使って粉砕する。

「下僕の巨人は元より、今戦ってるゲーやウーですら、ただの端末なんだろ?」
「はい。ゲーは、地上を支配するクラウドネットワーク上で走る、人類管理プログラム。ウーは無数の人工衛星を使った、人類監視プログラムに過ぎません」

「そんなモノに、地球の人類は未来を委ねているのか」
「コンピューターによる支配が、完全に間違っているかどうかは、わたしにも解りません。ですが、今のゲーやウーが地球の全てを決定する未来は、間違っています」

「ミネルヴァさんが、ボクを地球に連れて来た本当の理由って……なんだ?」
 黒い雨が降りしきる下で、ゼーレシオンと巨人や原初の神々との戦いは続く。

「宇宙斗艦長……貴方に、この地球の代表となっていただきたいのです」
 ミネルヴァさんの声が、はっきりとゼーレシオンの長い触角に伝わった。

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