ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第07章・13話

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白い街並み

 恐らくは、ボクが眠っていたフォボスよりも歴史のある、ドーナツ型のコロニー。

「大きなドーナツが、いくつも連なってますね。なんだか、お腹が空いて来ました」
 アンティオペーが、言った。

「キミらも、来るのは始めてなのか?」
「それはもちろんですよ。わたし達は起動してからずっと、トロイルスに配備されてましたから」
 オリティアが、答える。

「オリティア、もう少し人間らしい表現はできないのですか。わたし達はすでに、人間たちによって飼いならされた戦士ではないのよ」
 ライム色の天然パーマの少女が、仲間を注意した。

「そうは言うが、メラニッペ―。自由と言うのは、案外面倒でな。任務意外に、これと言ってやりたいコトが思い付かん」
「オリティアらしいわね。アナタ、休暇中でもずっと、過去の歴史やら戦略やらにアクセスしてるし」

「我らは、アマゾネスなのだ。それホド、おかしなコトでも無いだろう?」
「そうかしら、わたしはメラニッペ―ほどじゃないケド、お洒落やグルメにも興味があるわ」

 3人のアマゾネスたちが、女子トークに花を咲かせている間にも、テル・セー・ウスは、宇宙港のドッグに固定される。

「では、宇宙斗艦長、参りましょう」
 落ち着いた大人の顔で、ミネルヴァさんが言った。

「その前に質問なんですが、このコロニーの内部は荒廃してしまっているのですか?」
「太陽系の中心地では無くなったものの、荒廃とまでは言えないでしょう。各コロニーに住む人々の数は、わたくしが居た頃よりもむしろ増えていると聞いております」

「ミネルヴァさんは、このコロニーの出身なんですか?」
「ええ、既に100年くらい前の話です。ミネルヴァ(戦争の女神)を名乗るようになってからは、帰郷も果たせておりませんでした」

 見た目は、20代の美しい女性にしか見えないミネルヴァさんは、実際は200歳前後の年齢なのだと自ら言っていた。
流石のボクも、女性の年齢に対するそれ以上の詮索は止め、話題を変える。

「3人も同行して、構いませんか?」
「ええ、それは構いませんが……」
 少しだけ、眉をひそめるミネルヴァさん。

「艦長、わたしはこの艦の艦長です。なのでわたしは、残ります」
「ムリをするな、アンティオペー。街に出て、ショッピングでもしたいのだろう?」
「オ、オリティア。そ、そんなコトは……」

「ここは、わたしが残ろう。2人は、ヴィクトリアの街を愉しんでくるといい」
 レンガ色のストレートヘアをした少女が、言った。

「いいのか、オリティア?」
「構わないですよ。むしろわたしの場合、落ち着いて戦略や戦術を研究する時間を得られることの方が、有難いのです」

「わ、悪いわね、オリティア。お土産、持って来るから」
 明らかに街に降りたがっていたテル・セー・ウスの艦長は、あっさりと案を飲む。

 それからボクとミネルヴァさんは、2人のアマゾネスと共に艦を降りた。

「見て見て、宇宙斗艦長。オレンジ色の屋根の白い家が、たくさん並んでいるわ」
「細長い街並みが、ずっと傾斜しながら空の彼方まで続いているのも、不思議な感じね」
 街に飛び出すなり感想を述べる、アンティオペーとメラニッペー。

 ドーナツ型コロニーの、外側の構造物に張り付くカタチで形成された街並み。
永遠に続く上り坂の道路の両脇に、白い家々が建ち並ぶ。

「地中海……ギリシャとか、クロアチアに近い感じだな」
 ギリシャのアクロポリスや、クロアチアのドブロブニクを彷彿とさせる風景を前に、ボクは思わず自分の時代の世界観を言ってしまった。

「さぞや、美しい街並みだったのでしょうね」
「いえ、実を言うと、実際に行ったコトは無いんです」
 引き籠りだったボクの行動半径など、日本どころか街すら出ない領域に収まっている。

「そう……ですか」
 ミネルヴァさんの美しい表情が、曇った。

 気を悪くさせたのかと思ったが、それは見当違いだった。
それからボク達は、長い坂道を上って外交館へと脚を踏み入れるコトとなる。

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