コンタクト
ココア色のソファが置かれた、ドス・サントスの執務室。
天井からぶら下がったシーリングファンがクルクルと回転し、テーブルに置かれた果物カゴには南国のフルーツが並んでいる。
「宇宙斗艦長が、地球に降りるのに使った艦は、テル・セー・ウス号って言ってだな。電子望遠鏡でも映像を確認したんだが、ありゃあかなりの大型艦だな」
ユカタン半島に端を発する製薬企業トラロック・ヌアルピリの代表である、ドス・サントスが言った。
「なんせ、トロイア・クラッシック社の標準旗艦、しかも最新鋭艦と来たモンだ。あの艦1つで、地球の企業国家と戦えるくらいの戦力はあると思うぜ」
テーブルに脚を投げ出した、プリズナーがほくそ笑む。
「……らしいぜ、マレナ、マイテ、マノラ。交渉は、慎重にな」
「了解したよ、ドス・サントス代表」
「現在、ウーによる電磁波ジャミングを、先方がクラックしてくれてる」
「まもなく、正面スクリーンに映像出るよ」
マクイの娘である3姉妹の尽力もあって、テル・セー・ウス号との間に通信が確立した。
「ウーのジャミングを、かい潜ったってのかよ。大したモンだ」
「いいや。地球の遅れた技術じゃ、情報遮断もままならないってコトだろ」
ドス・サントスに、ことごとく反発するプリズナー。
ウーとは、地球の天候管理システムであり、核戦争によって歪んだ地球の大気を、元の正常な状態へと戻す為に生み出されたモノだ。
複数の人工衛星によるネットワークで構成されており、すでに地球の天候が回復する見込みが無いホド悪化してしまった現在に置いては、実質的に人類監視の役割りの方が大きい。
「あ、繋がったみたいです!」
セノンが、場の空気を一変させた。
「さて、木星圏の企業国家生まれの最新鋭艦の艦長とは、どんなヤロウなんだ」
スクリーンに浮かび始めた映像を、固唾(かたず)を飲んで見守るドス・サントス。
「……えっと、これってどうなって……アレ、もう映像来てるゥ!?」
スクリーンの中で、慌てふためく少女。
「ゴ、ゴメンなさい。わたしは、アンティオペーと申しましゅ……」
クリムゾンレッドのソバージュヘアをしたコケティッシュな女のコは、必死に難しい顔を作ろうとしていた。
「オ、オイオイ。まさかこの嬢ちゃんが、最新鋭艦の艦長だってのかよ?」
プリズナーの方を見る、ドス・サントス代表。
「ギャハハ、コイツァ傑作だぜ。だがそうは言っても、アマゾネスだ。優秀なのだろうぜ」
「アマゾネスだって。アマゾネスは、もっとグラマーでセクシーな女だろうがよ。こんな小娘で、あるハズが……」
「し、失礼ですね。わたし達は、生体アーキテクターなんです。本来のグラマーでセクシーな身体は、戦闘により破損してしまって、この身体はまだ未成熟なだけなんです」
ご機嫌を損ねる、アンティオペー。
木星圏の企業国家によって生み出された、生体アーキテクターであるアマゾネス。
多くがイーピゲネイアさんの叛乱に加担し、激しい戦闘により本来の身体を失っていた。
「ス、スマンな、アンティオペー艦長」
「い、いえ。解っていただければ、良いのです」
艦長と呼ばれ、機嫌を直す少女。
「そんじゃ、本題に移らせてもらうぜ。アンタらの仲間である宇宙斗艦長と、ディー・コンセンテスのメルクリウス宇宙通商交易機構代表の行方が、わからなくなった」
「はい。その情報は、音声にて聞いております」
アンティオペーは、話を続ける。
「時の魔女の配下と思われる機体と接触し、交戦されたのでしたね」
「ああ、実際に戦ったのは……」
「オレと艦長と、艦長の9人の娘だがよ」
ドス・サントスの答えを、強奪するプリズナー。
「その後、セノーテと呼ばれる貯水槽にて、再び時の魔女の配下と見られる敵に遭遇した……と?」
「ああ。白い髪の、不気味なヤツだったぜ」
「だがよ。大方の情報は、マレナたちが上げてんじゃねェのか?」
「はい。情報が正しく伝わっているか、確認させていただきました。既に得た情報は、わたし達の旗艦に送信してあります」
「なるホドな。MVSクロノ・カイロスの至高のコンピューターさまに、艦長の居場所を探って貰おうって腹積もりか」
プリズナーの言った通り、ボクたちの安否の情報はベルダンディーの手に委ねられた。
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