歩み寄る絶望
「ア、アレ……兄上……待ってくれ。これは、何かの……ギュバッ!?」
ギスコーネの顔面にヒットする、兄の拳。
天空都市となったアト・ラティアの、まだ塗れている地面に叩き付けられる弟。
「ギスコーネ。テメーはカル・タギアに、コイツらを招き入れた!」
「ブバッ!?」
倒れた弟の胸倉を掴んで、もう1度ブン殴るバルガ王子。
「や、やめて……ガハツ!?」
「それでけじゃ無ェ。オヤジやアクトらを、テメーの配下を使って襲わせ、そいつの剣で魔王に変わるように仕向けやがった!」
「イ、イヤだァ。もう止めてよ、兄上。な、なあ……お前たち!?」
ギスコーネは、ウェーブのかかったダークグリーンの髪を振り乱し、背後を振り返った。
「メ、メディチ・ラーネウス、ペル・シア、ソーマ・リオ。お前たちは、ボクの味方じゃないか。なにしてんだ、さっさとこの愚かな兄を、倒しやがれェ!!」
這いつくばったまま、自分の派閥の3体の魔王に向かって手を伸ばし、命令口調で助けを求める。
「ギャハハ、なんでオレらがアンタを、助けなきゃなんないんスか?」
「マジ、キモ~イ。アンタなんて、もうなんの力も持ってないっしょ?」
「悪いケンド、そう言うコトなんだな」
「なッ!? テメーら、ふざけてんじゃ……!?」
「ふざけてんのは、テメーの方だろうが」
兄によって、空中に放り投げられるギスコーネ。
「お袋が死に、ティルスが死に、ビュブロスも死んだ。カル・タギアで平和に暮らしていた国民だって、何人犠牲になったか解りゃしねェぜ!!」
頂点に達した弟の身体は、重力によって再び兄の元へ戻って来る。
「グボォ!?」
バルガ王子は最後に、強烈なアッパーカットで弟を跳ね飛ばした。
アト・ラティアの街の家の壁に叩き付けられ、崩れ落ちるギスコーネ。
「兄弟ゲンカは終わったかな、バルガ王子」
金髪の少年が、言った。
「済まねえな、降らねぇ茶番に付き合わせちまってよ。今度は、直接相手をしてやるぜ!」
サタナトスに向かって、一直線に斬りこむバルガ王子。
太陽の力を凝縮した黄金の剣が、煌めく。
『キサマ如き青二才が、生温いわッ!!』
大魔王ダグ・ア・ウォンの、蒼き剛腕が握る三叉の矛による雷撃が、バルガ王子を打ちのめした。
「ガハァッ!?」
実の父の攻撃によって、凄まじいスピードでアト・ラティアの遺跡にめり込む、バルガ王子。
「マ、マズイのじゃ。ただでさえ、戦力では圧倒的に不利じゃのに、大魔王まで戻って来おった」
ルーシェリアは、スプラ・トゥリーと互いに背中を合わせて、剣を構え身構える。
「ねえねえ、どうすんのさ。あっちはダグ・ア・ウォンさまの他にも、7海将軍(シーホース)が5人もいるんだよ。せめて、ガラ・ティアが居てくれたら……」
「どうせ無理を願うなら、シャロリュークが良いわ。あヤツが生きておれば、あるいは……」
「ククク、居もしない戦力を願うとはね。笑ってしまうよ」
大魔王と、7体の魔王を率いるサタナトスが、ルーシェリアたちに向って歩き始める。
「なんか良い策は無ェのかよ、シドン!?」
「無い。それに、あの鎧姿の3体からも、ダグ・ア・ウォン様に匹敵する力を感じる」
「絶体絶命が過ぎんだろ。こんなところで死んじまったら、地獄で兄貴に会わせる顔がねぇぜ」
シドンとベリュトスも、虫の息のアラドスを囲いながら、2人の少女と背中を合わせる。
けれども静かに歩み寄る絶望に対し、誰一人として対処法を持ち合わせてはいなかった。
「アクト・ランディーグ、メディチ・ラーネウス、ペル・シア、ソーマ・リオ、ベク・ガル。キミたちに、汚名挽回のチャンスをあげるよ。そいつら全員、殺してくれるかい?」
「お任せあれ、サタナトスさま」
うやうやしく龍の頭を下げる、アクト・ランディーグ。
「その言葉、待ってましたぜ。この溢れんばかりの力、振るってみたくてウズウズしてたんスよ!」
「マジ、惨殺ゥ。グサグサに刺し貫いて、こっからバラ捲いて魚のエサにしてあげるっしょ」
「オデも、みなぎって来ただな」
メディチ・ラーネウス、ペル・シア、ソーマ・リオの3体も、それぞれの誇る槍を構えて、ルーシェリアたちに迫る。
「スプラ……お前とは、戦いたくないんだが……」
そんな中、1人だけ戦いに乗り気で無い魔王が居た。
前へ | 目次 | 次へ |