共闘する王子たち
「まったく、なに考えてやがる。テメーこそ、さっさと飛び込めば命は助かっただろうに」
兄は、肌の色も髪の色も違う弟に言った。
「合理的に考えれば、そうなんでしょうがね。今回の災いをもたらしたのは、このボクだ」
ギスコーネが、氷の剣『コキュー・タロス』に冷気を集中させる。
「サタナトスの悪意を知りながら、兄上の座を奪いたい一心で、ヤツを招き入れてしまった。ボクには大した魔力も無かったから、魔王にはされなかったが、父上と7海将軍をこの手で……」
「ま、オレらは自分の意志で、サタナトスさまの軍門に降ったんだがよ」
「まさかお兄ちゃんに絆(ほだ)されて会心しちゃうなんて、とんだ甘ちゃんっしょ」
「坊やなんだなァ」
「ああ、ボクは坊やだ。それが、嫌というホド解ったよ」
漆黒の鎧を纏った男は、剣を天に向け掲げた。
「な……にィ、これは!?」
「あ、足が地面に貼り付いて……どうなってるッしょ!?」
「こ、凍り付いてるんだな!」
「ボクの剣は、空気中の水分さえ凍り付かせる能力がある。ましてや、海から上がったばかりのこの街は、地面の至るところに水溜りが残っているからね」
ギスコーネは、ダークグリーンの長髪をユラユラと揺らしながら3体の魔王に近づく。
「へッ、それがどうした。甘ちゃんにしてはやる様だが、足なんて切り離してしまえば……」
「今のアタシらは、魔王ってコトを忘れてるっしょ!」
「ア、アデ?」
「どうした、脚を切り離すのだろう。さっさと、やってみたらどうだ?」
灰色の肌をした男は、冷静な眼差しでかつての部下を観察していた。
「どういう……コトだ。足が……切り離せないだと!?」
「それどころか……身体が動かないっしょ!」
「な、なんでェ?」
「人の身体の多くは、水分で出来ている。海底都市に生まれた、海洋民族であるお前らは、その比率はより多いんだ。コキュー・タロスの氷は、お前たちの身体の内部まで浸食している」
「クソがァ。蒼流槍『ジブラ・ティア』、オレさまの身体を嚙み砕け!」
細かい牙が無数に生えた槍が、蒼き海龍の身体や長い尾までをも噛み砕く。
「メディチ・ラーネウス……一体なにを!?」
「動かない身体だって、こうすりゃ動くのよ。覚悟しな!」
蒼流槍を中心に、噛み砕かれたメディチ・ラーネウスの肉片が集まり、巨大なウツボのようになってギスコーネを襲った。
「グワアァァァァーーーーッ!」
無数の牙にわき腹をえぐられ、吹き飛ぶギスコーネ。
「スマートじゃ無いっしょ、ラーネウス。身体丸ごと砕かなくたって、こうすれば済むっしょ」
黄玉の魔王ペル・シアは、脚の裏から鋭く長い棘を生やし、ハイヒールのようにして地面から距離を取っていた。
「でも、ちょっぴり焦ったっしょ。破黄槍『バス・ラス』で、お仕置きっしょ!」
針山の槍の無数のトゲが、ギスコーネに向け放たれる。
「ヤレヤレ、コイツらもまだ本気は見せて無ェみてぇだな」
バルガ王子が、吹き飛んだ弟の前に立った。
トゲは黄金へと変化し、重さによって地面に落ちる。
「当たり前だろうが。オレらの力は、まだまだこんなモンじゃ無ェぜ」
「獲物には逃げられたみたいだしィ、アンタら2人くらい殺らないと立場ないっしょ!」
「へへ、アイツら、ちゃんと逃げられたか。最低限の目標は、達成だぜ」
その頃、シドンやベリュトスは、スプラが展開した触手の槍の巨大パラソルで、ゆっくりと海に向かって落下していた。
「立てよ、ギスコーネ。お前の部下が、襲って来やがる」
「元部下ですよ、兄上。こんなコトになろうとは、思ってもいませんでしたがね」
海底都市カル・タギアに生まれ育った2人の王子は、黄金と氷のそれぞれの剣を手に、2体の魔王に向って飛び掛かる。
「オデ、普段からあんまし動かないし、このままでもいいだか」
橙玉の魔王ソーマ・リオは、呑気の闘いの様子を見守った。
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