ヘッポコ探偵
果たしてボクは、奈央のコトをどう思っていたんだろ?
子供の時からいつもソバに居た、世話好きで元気な女のコ。
イジメられッ子だったボクを、イジメっ子から守ってくれた。
子供の頃は一緒にお風呂に入ってたし、今だってウチのソファに寝転がって、パンツ見えてても気にしない奈央が、亜紗梨さんの前だとお淑やかな女のコになってる……。
奈央はもう……子供じゃ無いんだ。
チェーン店のコーヒーショップのテーブル席で、亜紗梨さんと楽しそうに話す幼馴染みの女のコ。
5メートルと離れて無い席なのに、なんだかもの凄く遠い気がする。
「お前たち、喫茶店でなにをコソコソしている?」
いきなり、聞き覚えのある声がした。
「うあ、雪峰。まあいいから座れ!」
紅華さんが雪峰さんを、無理やり自分の隣の席に引っ張り込んだ。
「お前の方こそ、どうしたよ。もう春も終わりだってのに、ウインドブレーカーなんか着込んで?」
確かに今日の雪峰さんは、紺色の上着と黒いズボンのウインドブレーカーを着てる。
「先の狩里矢との練習試合では、キャプテンでありながら途中交代という、醜態を晒してしまったからな。少しでも持久力を高めて置かねばと思って、ランニングをはじめたんだ」
「へ~、真面目なこって。んで、サ店に寄り道かよ?」
「ま、オレは進学校でもあるし、勉学も疎かには出来んのでな」
雪峰さんは、たすき掛けのお洒落なバッグから、愛用のタブレットを取り出した。
「ンなモンで、勉強ってできるのか?」
「ああ、今どきこれ1つあれば、十分だ。それより、お前たちの方こそ目的はなんだ?」
「二ヒヒ、アレよアレ。気付かれ無いように、そっと見ろよ」
「ん……誰も居ないテーブル席が、どうした?」
あ、奈央が居ない!?
亜紗梨さんも、どこかに行っちゃった。
「ヤッべ、アイツら、話してる間に店を出やがった。急いで追い掛けるぞ、一馬!」
「……う、うん」
「オイ、いきなりどうした? どこへ行く?」
ボクたちは、ワケが解らないといった表情の雪峰さんを残して、喫茶店を出た。
「マジィ、どっち行った。完全に、見失っちまったか?」
「ア、アレ……」
ボクは、2人が並んで歩く横断歩道を指さす。
「あんなところに……って、信号変っちまうじゃねェかよ!?」
ボクたちから横断歩道まではまだ遠く、歩行者用の信号は赤に変ろうとしていた。
「クッソ、間に合わないか。オッと!」
「おわ、痛ッテー」
紅華さんが、誰かにぶつかる。
「ワリィ、急いでたモンでつい……ん?」
紅華さんが、訝し気な顔でぶつかった相手を見た。
「お、お前、クロじゃねえか。どした、おかしな格好して?」
陸上勝負の時の黒いジャージ姿が印象的な黒浪さんは、今日はカジュアルな格好をしている。
茶色と白のシャツに緑色のカーディガン、頭にはハンティング帽まで被ってた。
「いかにもデート初心者が選びそうな格好してんな……ってコトは、千鳥ちゃんも居るのか?」
「うああ、なんでバレたァ!?」
慌てふためく黒狼。
「あ、居ますけど、デートとかでは無くてですね。会社の撮影機材を、運んでもらってるところです」
黒浪さんの向こうにいた千鳥さんが、ひょこっと顔を出す。
今日は制服姿でな無く、最初に会った時の作業用的なGパンにシャツを着ている。
「やっぱ千鳥ちゃんって、制服来てねーと少年だな」
「オイ、ピンク頭。千鳥さんに失礼だろ!」
「女のコの胸を、揉み拉(しだ)くよかマシだケドな」
「うわあ、それ言うなって!?」
「で、今日は2人きりでデートか。とんだデート日和だな」
「ワイも、おるでー」
「うわ、居たのか。イソギンチャク」
背後から現れたのは、金刺さんだった。
「やかましいわ、桃色サンゴ。千鳥みたいな出向ちゃうが、ワイも佐藤さんが一応会社に席残してくれてはるさかいな。多少は役立と思うて来てみたら、コイツが居よったんや」
「お陰でオレさまの、完全な計画が……」
「で、一馬とピンク頭は、なんで連んどるんや?」
「あ、しまった。アイツら、どこ行きやがった!?」
ボクは、駅前のデパートに入って行く2人を指さした。
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