ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~第10章・3話

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血に染まる砂漠

「それにしてもアンタ、随分と可愛らしい坊やを連れているじゃないか?」
 赤い髪の女が、ケイダンの顎先を撫でようとした。

「坊やじゃ無いですよ、オレは」
 憮然とした顔をして、立ち上がる黒髪の少年。

「そうかい、坊や。でもアンタ、女を知らないんだろう?」
「オイ、エイシャ。オレの弟子を、からかうんじゃねえぜ」
「からかっちゃいないさ。アンタより坊やの方が、男前だしねェ」

「くたびれた、中年オヤジなんかよりさ」
「若くて精細な坊やの方が、好みに決まっているじゃないか」
 オレンジ色の髪の女と、バイオレットの髪の女も、席を立ってケイダンの周りに集う。

「コ、コラ、お前たち、止さないか。ここは交渉の場だぞ」
「よく見るんだねぇ。ここは酒場だよ」
 3人の女傭兵は雇い主の静止を無視して、黒髪の少年に豊満な胸を押し付ける。

「どうだい、坊や」
「アタイらが、アンタを……」
「一人前の、大人の男にしてやるよ」

「いえ、けっこうですよ」
 ケイダンは瞬時に、師であるラディオの背後に移動した。

「なッ……瞬間移動だってッ!?」
「まさかアンタ、あの坊やに……」
「蜃気楼の剣を、使わせているんじゃないだろうねェ!?」

「まあな。今じゃオレよりも、上手く使いこなしてる時だってあるぜ」
 弟子に女を奪われ、不貞腐れながら酒を飲む師匠。

「師匠、申し訳ありません。許可なく、剣を使ってしまいました」
「気にすんな。どうせその剣は、いずれお前にくれてやッからよ」
「剣は、お返しします」

「いや、いいよ」
「そういうワケには、行きません」
 少年は剣を師匠の傍らに置くと、酒場を出て行った。

「まさかアンタが、弟子なんて取っていたとはねェ」
「でも一匹狼なアンタが、どういった風の吹き回しだい?」
 オレンジ色の髪の女と、バイオレットの髪の女が相次いで質問する。

「まあ何となくだ、何となく。それよりエルミナ、サラ。お前たちも、もっと飲んだらどうだ」
「そうだねェ。どうせアンタの驕りなんだし」
「派手にいただくとするよ」

「ラディオ殿、あまり飲まれると、明日の出発に差し支える恐れが……」
「うっさい雇い主だね」
「交渉は纏まったんだし、あとは自由にさせて貰うよ」

 3人の女傭兵は、蜃気楼の剣士と夜まで飲み明かす。
月が顔を出し、星が輝き始めると、3人の女は中年男と同じ建物に入って行った。

「師匠の酒癖と、女癖の悪さは何とかならないモノか……」
 宿屋で一人、師の帰りを待つケイダン。
自身の装備を荷物棚に置き、ベッドに腰を降ろす。

 けれども、月が夜空の高みに登っても、ムハー・アブデル・ラディオは帰ってこなかった。

「このまま朝まで、帰って来ないつもりか……まったく」
 彼が諦めて、シーツを被って寝ようとすると、窓の外から物音がした。

「なんだ……3人の女傭兵たちじゃないか?」
 深夜の街を、走り抜ける3人。
ケイダンは、そのウチ先頭の赤髪の女が抱いているモノに、気付いた。

「アレは、師匠の蜃気楼の剣じゃないか!?」
 慌てて飛び起きる、ケイダン。

「あの女たち、師匠に酒を飲ませて眠らせて、剣を奪ったんだな」
 女たちは繋いであった馬に飛び乗ると、砂漠の方へと駆けて行ってしまった。

「マズイぞ。師匠に知らせるか……」
 けれども彼の脳裏に、酔い潰れた師匠の姿が浮かぶ。
仕方なく彼も馬に乗って、女たちの跡を追った。

「あの岩山に、逃げ込む気だな。アジトでも、あるのか?」
 なるべく気付かれないように、蹄(ひづめ)の音を抑え追跡するケイダン。
その時、彼の上を大きな影が飛び去った。

「なッ……アレは、まさか!?」
 影は、明るい月を隠すように飛ぶと、女たちの前に降り立つ。

「な、なんだい、コイツは!?」
「もしや、例の魔王なんじゃないの!」
「せっかく、天下七剣の一振りを手に入れたってのに、なんだってこん……な……」

「あ……」
 紫色の何かが、夜空に舞った。
頭部を失った女の身体が、馬から崩れ落ちる。

「サ、サラ!?」
「サラがやられちまった……」
「いいから逃げるよ、エル……ミナ!?」

 赤髪の女が仲間の方に目を向けると、そこには剛直な体毛に覆われた魔王の右脚があった。
その巨大過ぎる蹄の周囲には血が滲み、肉塊や馬の頭などが散乱する。

「ヒイイィィ、エルミナまで、死んじまったァ!?」
 そこそこ整った顔を、大きく歪ませて必死に馬を走らせる女傭兵。
大きく揺れる胸には、蜃気楼の剣を抱えている。

『グルルルル、その剣をよこせええぇぇぇーーー!!』
 魔王モラクス・ヒムノス・ゲヘナスは、容赦なく彼女の馬をも跳ね上げた。

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