ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~第9章・9話

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日記の記憶

 蒼く切り立った岩山の、中腹にポッカリと口を開けた洞窟。

 洞窟の中には、そこがかつて宗教儀式を執り行う場所であったコトを示す、崩れた遺跡の痕跡が僅かに残る。

「ヤレヤレ。まさか、『マルショ・シアーズ・フェリヌルス』ばかりか、『ザババ・ギルス・エメテウルサグ』までもが倒されてしまうとはね」

 怪しげな模様が刻まれたタイル貼りの床に寝そべった、金髪の少年が言った。

『ククク……無様な姿だな、金髪の小僧よ』
 鍾乳石に覆われた天井に、響く低い声。

「アレ。キミやっぱ、死んでなかったんだ?」
 少年は下半身を欠落しており、上半身だけの存在となっていた。

『我が、アレしきの攻撃で滅ぶモノか。最も、次元の狭間の深い場所に追いやられ、少々手こずってはいるがな』

「だったらボクが、キミを再び召喚してあげるよ、ザババ」
『元から、そのつもりであったのだろう。ここは、我の神殿があった場所故な』

「だけど、人間にも手強いヤツが居るモンだね。キミを倒した雪影って剣士もそうだし、少女の姿にしたとは言え、シャロリュークも侮れない」

『クク、お前にしては弱気な言葉だ。妹を、復活させるのでは無かったのか?』

「そう……だったね」
 虚空を見つめていた、ヘイゼルの瞳を閉じる少年。

「あの日、ボクは最愛の妹を失った」

 洞窟の外では、雪の混じった風がビュウビュウと音を立て、灰色の空に渦を巻く。

「母が死に、孤独なボクに唯一残された妹、アズリーサを……人間どもの手によって、殺されたんだ」

 舞い上がった風は、やがて山を降り平原を拭き抜けた。

 平原に築かれた城郭都市のシンボルである、一対の金色の魔物が画かれた旗が揺らめく。

「ムオール渓谷にある村の巫女であった、マホ・メディア様が……」
「魔王との死闘の二年後に、故郷の村に帰り付き、産み落とされた双子」
「そのうちの一人が……」

 状況を整理し、事態を推察するアルーシェ、ビルー二ェ、レオーチェの三人の少女騎士。

「そう、サタナトスじゃ」
 ルーシェリアは日記の、それまで話した内容の続きを語り始める。

「サタナトスは、白い肌に金色の髪の赤子での。母親と同じく、天使を思わせる容姿だったそうじゃ」

「ルーシェリア殿は、双子と仰いましたな?」
「それが事実であれば、サタナトスに兄弟が居たコトになります」
「その御仁は、どうされたのでしょうか」

 ナターリア、オベーリア、ダフォーリアの三人の侍少女が、仰々しく伺いを立てた。

「名を『アズリーサ』と言っての。サタナトスの、双子の妹じゃよ」

「アズリーサか?」
「なんか、可愛らしい名前だな」
「ソイツは、どんなヤツだったんだ?」

 ヤホッカ、ミオッカ、イナッカの獣人三人娘が、無邪気に問いかける。

「兄とは異なり、蒼い髪の赤子だったと書いてあったわ。二人は村の教会に預けられ、シスターによって育てられたのじゃ」

「シスター……もしかして、この日記を記したのは?」
 三人の侍少女と、三人の少女騎士、三人の獣人娘の主である、女王レーマリアが問いかける。

「ムオール渓谷の谷間の村の、教会のシスターじゃ。じゃが他の村人たちは、二人を忌み嫌った」

「ど、どうしてなのだ?」
「二人の父親が……原因なのでしょうね」
 ヤホッカの質問に答える、女王。

「村人たちは、二人の父親が魔王だと思っておった。しかも、その魔王は今も健在じゃから、二人は魔王のスパイだとも噂されたらしいの」

「それで、二人はどうなったのでしょうか?」
「村人たちの、陰湿な嫌がらせもあってな。特に妹のアズリーサは、蒼いボサボサ髪に、口元にやい歯といった風体での。格好のターゲットとされたのじゃ」

 ルーシェリアは円卓を立ち、窓辺に立つと遠くの灰色の空を見上げた。

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