金髪の天使の追憶~2
「この村も今年は、例年以上に酷い飢饉なのです」
「存じております、シスター。渓谷を切り開いて作った畑が、先の大雨で流されてしまったのだとか」
蒼い髪の少女が、言った。
「そればかりでは無いのです、アズリーサ。大雨以降、日照り続きで作物が育たず、村人たちは明日の食事にすら困っているのです」
「つまり、何が言いたいんだ?」
金髪の少年が、問いかける。
「サタナトス。貴方は早急に、アズリーサを連れ村を出なさい」
「な、何を急に。どうしてボクたちが、村を出なきゃならないんだ?」
「村人の中に、貴方たちを良く思わない者が大勢いるのは、知っているでしょう」
「ボクの前では大人だろうが、歯向かっては来なくなったケドね」
「この教会も、配給が止められたのです。孤児を食べさせる余裕は、無いと……」
「そ、そんな。わたし達だけじゃなく、みんなもですか?」
「ええ。ですから遠い親類でも居る子供たちには、村を離れてもらうしか無いのですよ」
「ボクたちの親類は魔王と知っていて、言っているんですか?」
「そ、それは……貴方たち二人なら、この村じゃ無くとも生きて行けます」
「つまりボクたちは、厄介払いをされるワケだ?」
「に、兄さん」
すると、シスターの小さなアトリエに、子供たちが飛び込んできた。
「シスター、大変だ。村長が来てるよ」
「落ち着けよ。村長が来てるのの、何が大変なんだ?」
「サ、サタナトス。そ、それが……」
「とにかく、一度会って話をしてみましょう」
シスターは聖堂で、村長と村長が連れて来た村の大人たちと話をする。
サタナトスを含めた子供たちは、扉越しに聞き耳を立てていた。
「今年は、モレクス様に『お供え物』をするしか、ねェと思っているだよ」
「な……何を言って!?」
「堪えてくれ、シスター。こっちにも、余裕がねェんだ……」
「な、なあ、大人たち、何を話しているんだ」
少年の一人が、サタナトスに問いかける。
「簡単に言えばボクたちを、神さまのお供え物にするって話だよ」
「わ、わたし達を……お供え物?」
「どう言うコトなのかしら?」
「このムオール渓谷の谷底に、枯れた湖があるのは知っているかな?」
「オ、オレ知ってるぞ。父ちゃんが生きてた頃、一緒に行ったから」
「干上がった湖には、壊れた牛頭の石像が転がっているんだケド、そこが地下祭壇の入口になっているんだ。地下には溶岩湖だあって、壊れていない牛頭の神が祀られている」
「な、なんでそんなコト、しってるんだよ!」
「最近、よく遊びに行っているからね」
「サ、サタナトス、お前そんな場所まで行っていたのかよ?」
「それよりも、その牛頭の神さまって、もしかして」
「ああ。村長たちが、ボクたちを捧げようとしている、神さまだろうね」
「捧げるって、どうなるの?」
教会の5人の女の子たちが、恐る恐るスサタナトスに質問する。
「さあな。でも、シスターのアトリエに、古い文献があったハズだ」
「よ、よし。大人たちが話している間に、読んでみようぜ」
孤児たちは、足音を潜ませアトリエへと向かった。
「神の名は、力の魔王・恐怖の魔王・モラクス・ヒムノス・ゲヘナス」
「それ、神じゃなくて、魔王じゃんか!」
「シスターの宗教から見れば、そうなんだろうな」
「そ、それより兄さん。どんな神さまなの?」
事前にシスターの話を聞いていたアズリーサは、不安そうな表情を浮かべている。
「子供たちを、生贄に要求するらしい。巨大な牛頭の像の中に火がくべられ、子供を焼き殺すんだ」
「ヒィッ、そ、そんな……!?」
カタカタと、上下の歯を打ち鳴らす少女たち。
「外では大人たちがドラムや太鼓を打ち鳴らして、生きたまま焼かれて藻掻く子供たちの悲鳴を、かき消すって書いてあるよ」
金髪の天使は、無邪気な顔で微笑んだ。
「いやあッ!」
「わ、わたし、まだ死にたくないよォ!」
5人の少女たちの股間は濡れ、足元に黄金色の水溜りが出来る。
「ど、どうするよ、サタナトス」
「オレたちだって、死ぬのはゴメンだぞ」
「に、兄さん」
蒼い髪の少女も、金髪の少年を見つめる。
「そうだな……みんなで村を、逃げ出そう」
少年たちは、そう決断した。
前へ | 目次 | 次へ |