ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第11章・第45話

業(ごう)

「警察は、ハリカさんや捜査員たちを眠らせた、紅茶に入れられた睡眠薬の出どころを洗ったのです。そして、地元の有力者でかつては医者でもあった、ある男に辿り着きました」

 マドルの猫のような瞳が、1層鋭くなる。

「元医者の名前は、木澤 衆市(しゅういち)。貴女も宿泊されていた宿のある街で、医院を経営していた。けれども医療事故がきっかけで、彼の医院は廃業に追い込まれている」

「そ、その方が、どうしたと言うのです。わたくしは、存じ上げませんわ!」
 冷静で控えめだった中年女性の声が、荒々しくなって行った。

「ここに来て、新たな登場人物とはね。反則じゃないのか?」
 舞台袖から舞台を観賞していた久慈樹社長が、苦言を呈(てい)す。

「新たな人物が、捜査線に浮上するのは、よくあるコトですが……恐らくマスター・デュラハンとは、関係無いですよ」

「ホウ。キミの推理が当たっているか、続きを見ようじゃないか」
「……はい」
 ボクたちは舞台に視線を戻し、口を閉ざした。

「警察は、我々だけでは無いのです。貴女の身辺調査は、他の捜査員によって行なわれました。結果、貴女と木澤 衆市が一緒に歩いてる姿を、多くの人物が目撃していたとの情報が得られたのです」

 マドルが迫真の演技で、声だけの存在である藤美を問い詰める。

「……な、なにが悪いってのよ!」
 甲高い怒声が、ドーム会場に反響した。

「ふ、藤美さん!?」
 警部の声が、観客たちの気持ちを代弁する。

「良家に嫁いだと思ったら、旦那はとっとと流行り病でくたばっちまうは、病気のババアの世話は見させられるわ。外で男を作ったくらいで、とやかく言われる筋合いは無いのよ!」

「藤美さん。貴女は木澤 衆市と、身体の関係も持っていた。ここからは推測ですが、廃業がきっかけで多くの借金を抱えていた木澤は、貴女に金銭を要求したのではありませんか?」

「そうよ。木澤家と言えば、あの街じゃ知らない者の居ない名家だったからね。それが1代で没落させちまって、あの人も相当悩んでいたのさ」

「同時に貴女も、彼にある物を要求した。それが……」
「もう、言い訳したって無駄なんだね。そうだよ、お察しの通りさ」

「睡眠薬を、木澤 衆市から受け取ったコトを認める……と?」

「警部さん。とっくに裏は、取れてるのでしょう?」
「ええ、まあ……」
 歯切れの悪い、警部の声。

「睡眠薬を受け取る前、貴女は竹崎弁護士から、重蔵氏の遺産相続の件を聞いていた。そこで貴女は、館にハリカさんを進入させたのですね?」

「オイオイ、マドル。ハリカさんは、自分から館に来ると我がままを言って、強引に押し掛けて来たじゃないか。藤美さんは、むしろ止めていただろ」

「警部は、まだ女ってのを理解していないみたいだね。そのままだと、一生独身だよ」
「そ、それじゃあ、本当に藤美さんが、愛娘であるハリカさんを……」

「そうよ。だけど別に、あのコが可愛く無かったワケじゃないさ。ウチも旦那が死んで、家計が厳しくてね。仕方なく、あの子を行かせたんだよ」

「それなのに……ハリカさんは殺されてしまった」
 マドルは無念そうな顔を、1瞬だけ見せる。

「なんであんなコトに、なっちまったのかね。わたしにだって、判らないよ……」

「ハリカさんの殺された日の朝、貴女は寺の焼け跡で、ハリカさんの打ち捨てられた頭部を発見した」

「アアッ、なに言ってんだ。ハリカさんの首を発見したのは、嗅俱螺 蛇彌架(かぐら タミカ)さんだぞ。孫の首を見たタミカさんは、心臓麻痺で……」

「警部も、気付いた様だね。タミカさんの体内からは、大量の睡眠薬が発見されたのだよ」
 マドルが、何かを示唆(しさ)した。

「あのババアは、わたしが殺したのさ。薬に大量の睡眠薬を混ぜて、飲ませてやってね。アッハハ」

 思わず、笑いを零す藤美の声。

「何とも、業(ごう)の深い事件だね……」
 マドルが、呟(つぶや)くように言った。

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