ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第39話

蘭陵王(らんりょうおう)

 ミニスターⅡ(セカンド)コアによる、平安の雅楽によるステージは、ミニスターⅠ(ファースト)コアのときホドの盛り上がりを見せなかった。

「まさかアイドルが雅楽とは、斜め上を行くどころの話じゃないぞ」
 まるで昼食明けの5時限目の教室の如(ごと)く、眠そうな目を擦りながらアクビをする観客たちに、冷や汗をかく久慈樹社長。

「ですが徐々に、曲のテンポが上がって来てませんか?」
「ム、言われてみれば確かに……」

 日本伝統の楽器によって鳴らされた艶(あで)やかな音色は、徐々にリズムのビートを速め、やがて聞いたコトも無い音楽へと変化した。

「おおお、なんだか眠くなる音楽って思ってたケド、やけに曲調が速くなって来たな」
「鳴ってる音は、結婚式のときみたいな感じなのに、不思議ね」
「つうか、踊りもハンパねェな」

 雅楽の高速オーケストラの真ん中で、雅楽の奇抜な面を被って舞い踊る、ヒカリ。
最初はゆっくりとした舞いだったが、やがてアクロバティックな舞踏へと移り変わって行った。

「フウ。やっと、盛り上がって来てくれたか。それにしても、奇妙な仮面だな」

 ヒカリが被っている面は、黄金に輝いている。
黄金の目は見開き、黄金の歯をした口も大きく開いていた。
真っ白な眉や髭が跳ね上がり、水色の髪の上にはガーゴイルのような悪魔が乗っているように見える。

「アレは、蘭陵王(らんりょうおう)ですわ」
 久慈樹社長の背後から、ミカドが現れて言った。

「ランリョ……何だい、それは?」
「蘭陵王、もしくは蘭陵王入陣曲。当時の中国、唐よりもたらされた左方(唐楽)で、雅楽の有名な演目の1つです」

 奇抜な衣装を着て、舞台で舞い踊るヒカリ。
物珍しさもあって、次第に引き込まれて行く観客たち。

「なんだか雅楽って、思ってたより見れるね」
「かなり現代風のアレンジが、加えられてんだろうケドな」
「それにしても、あんなヒラヒラした衣装で、よく踊れるぜ」

 ヒカリは、黒い着物の下にも着物を何重にも重ね着していた様で、今は黒い着物を脱ぎ捨て、金色の着物で舞ってた。

「歌も、あるみたいだね。他の3人が、歌っているのか」
「いくらヒカリと言えど、あれだけの演舞をしながら歌うのは不可能ですわ」
 ミカドが指摘した通り、歌はキララ、ヒノワ、シンクが歌っている様子だった。

「歌詞は、蘭陵王の内容に沿ったモノに、なっているんですね」
「ン……キミは、蘭陵王の内容を、知っているのか?」
「一応ボクも、国語の教師ですから」

「ソイツは、済まなかった。で、どんな内容なんだ?」
 本当に済まないと思っているのか、疑問な久慈樹社長。

「蘭陵王は、本名を高長恭と言って、中国の南北朝時代の北斉(ほくせい)の名将です」
「中国にも、南北朝時代があったとはね。初耳だよ」

「彼は容姿端麗(ようしたんれい)、当時で言えば眉目秀麗(びもくしゅうれい)で知られた、絶世(ぜっせい)の美男子でした」
「なるホド。腐女子の好みそうな、ヤロウだね」

「あまりの美しさに、兵士たちは戦いもそっち退けで、戦争に影響が出るホドだったんです。ですから蘭陵王は、戦争のときは常に奇抜な仮面を付け、戦争に挑みました。戦争に勝利した蘭陵王を兵士たちが讃(たた)えた故事が、演目の起源となったんです」

「益々(ますます)、気に入らないヤロウだ」
 表情を歪める、久慈樹 瑞葉。

「最初の演目、『RAN・RYOU・OH』は、これにて終了じゃ。余の舞い、堪能(たんのう)してくれたかの?」
 奇抜な面を外し、観客たちに問いかけるヒカリ。

「あったり前だ、スゴかったぜ」
「ヒカリ、カワイイ身体なのに、大したモンだぜ」
「雅楽ってのにも、少しは興味が沸いたかな」

 舞台ではヒカリが、戦争で勝利を得て凱旋(がいせん)する蘭陵王の如く、観客席の喝さいを1身に浴びていた。

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