平安の雅(みやび)
ミニスターⅠ(ファースト)コアには、ミニスターⅡ(セカンド)コアも存在した。
「ミニスターⅡコアの特徴(スタイル)は、和じゃ」
リーダーのヒカリが、小さな身体をしならせて、目一杯ジャンプする。
彼女の背後には、ミニスターⅠ(ファースト)コアのときと同じく、3人の少女たちが控えていた。
舞台は平安時代の宮中を彷彿とさせるセットに、置き換わっている。
「まずは、メンバーを紹介するのじゃ。ブエルを象徴する、星崎 輝螺(ほしざき キララ)!」
ヒカリの手には、絵巻物が広げられていた。
ガラスの塔も、絵巻物に見立てられていて、毛筆で書かれた、星崎 輝螺の名前が浮かび上がる。
「ブエルを司(つかさど)る、キララと申します。お見知りおき下さい」
しっとりとした落ち着きのある声で挨拶をすると、ゆっくりと頭(こうべ)を垂れた。
キララは、銀色の星が散りばめられた黒い着物に、銀色のミニスカートを穿いている。
黒く艶のある長髪の上には、ヒカリよりは小型の烏帽子(えぼし)を被っていた。
背中に銀色の巨大な五芒星を装備していて、蒼い透き通った瞳をしている。
「わたくし共、ミニスターⅠ(ファースト)コアは、雅楽をアレンジした音楽を奏でますの。わたくしは、吹きモノを担当させていただいております」
キララの前には、パイプオルガンのようなモノがあった。
細い指がそれを奏でると、平安の雅(みやび)な音が発せられる。
「どうやらアレは、雅楽の吹きモノを組み合わせて作った、パイプオルガンのようですね」
「そうなのか。吹きモノと言われても、ピンと来ないが……」
久慈樹社長は、困惑した顔をしていた。
雅楽には、笙(しょう)や篳篥(ひちりき)、龍笛(りゅうてき)などの、吹きモノと呼ばれる気鳴楽器(きめいがっき)群があり、キララが奏でたのは、それらを集合させたパイプオルガンだった。
「次に紹介するは、柴畠 日輪(しばた ヒノワ)じゃ」
ヒカリが、次のメンバーを指名する。
「グーシオンを象徴する、ヒノワだっちゃ。ヨロシクね」
ヒノワは、紫色の花が染め抜かれた黒い着物の上に、サフラン色の裲襠(りょうとう)と呼ばれるエプロンのようなモノを付けていた。
「ウチの担当は、弾きモノってヤツだっちゃ。楽筝(がくそう)って言って、平たく言うと琴だね」
琴と言っても、脚が付いてキーボードのように配されており、ヒノワの周り3面を囲んでいる。
ヒノワは、3張りの楽筝を見事に奏でた。
「最後の1人は、長井 心句(ながい シンク)じゃ」
ヒカリが、残った1人を紹介する。
「ボティスを象徴とする、シンクです。シンクはね。琵琶(びわ)を担当してるの」
シンクは、ヴェスタ色のユルふわ髪に、緑色の瞳をしている。
ピンク色のヘビが染め抜かれた黒い着物に、闕腋袍(けってきほう)と呼ばれる上着を付けていた。
「あ。琵琶って言っても、琵琶湖じゃないよ。ホラ、こんなヤツ!」
1人称が名前の少女は、自分の持っている楽器を持ち上げた。
琵琶法師のように、ベンベンッと琵琶を弾き鳴らすシンク。
「オ、オイオイ。今度は、雅楽かよ」
「ねえ、ガガクってなに?」
「なにって言われたって、オレも大して知らないし」
観客席から、戸惑いの声が上がる。
「なんだか、ビミョウな空気になってないか。ミカド、本当に大丈夫なんだろうな?」
「ええ、モチロン。彼女たちも実力者です。心配には、及びませんわ」
舞台の仲間を信頼し、言い切るミカド。
「それでは、舞入る!!」
ヒカリが、軽やかにクルリと舞った。
キララの弾く、平安時代の吹きモノを集めたパイプオルガンにより、ゆっくりとした雅(みやび)な音が鳴らされる。
ヒノワが楽筝(がくそう)を弾き、シンクが琵琶を弾く。
「な、なんだか、どこかの神社の結婚式にでも来たみたいだぜ」
「意外に悪くはない音楽だケド、アタシ眠くなって来た」
「オ、オレも。ココは、寝とくか?」
けれども、ドームに詰め掛けた観客たちは、あくびを始めてしまっていた。
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