ラ・サ
「パレアナの中に……誰か別のヤツが、宿っていたのか!?」
舞人は、戦いのときに感じたパレアナに対する違和感の正体が、それであると理解した。
『クシィ―・ギューフィン様は、アト・ラティアの王家の血を引くお方。すでに亡くなられてしまっていますが、ペンダントに記憶として刻まれているのです』
「ペンダント……記憶をデジタルデータにして、中のチップに残したってコトか?」
舞人は身体の痛みさえ忘れて、トゥーラ・ンに詰め寄る。
『やはりアナタは、この時代の人間では無いようですね』
重機構天使(メタリエル)は、美しい顔に憂いを見せた。
「お前が言いたいコトは、解るよ。最近、ボク自身すら知らない言葉が、勝手に出て来るんだ」
アト・ラティアの街がまだ、深海に沈んでいた頃。
舞人は、街の宮殿にある武器庫で見つけた銃器を、始めから理解し使い方を教えて見せた。
「アト・ラティアの宮殿で見つけた知らないハズのモノさえ、ボクは知っていた……でも、そんなコトはどうだっていい」
舞人は、机に立てかけられていた剣を取る。
「パレアナを、返してくれ。アイツは、ボクの幼馴染みなんだ!」
『それは、出来ません。貴方の幼馴染みの少女の身体は、クシィー様の魂の依り代となっているのです』
「そんなのは、ただのデータだろう。他のヤツに、移せばいい」
『残念ですが、それが出来ないと言っているのです』
「どうしてだ。ナゼできない!?」
『依り代は、誰でも良いというワケではありません。アト・ラティアの血を、引く者でなくてはならないのです。そしてあの娘は、王家の血を引いておりました』
「パレアナが……アト・ラティア王家の血を!?」
『そうです。ペンダントは、サタナトスと言う者が、姫の遺骸から持ち去ったらしいのですが、適合者でなければ発動はしなかったでしょう』
「サタナトスは、パレアナを偶然生かしておいて、偶然ペンダントを与えたって言うのか!」
『偶然……にしては、出来過ぎていますね。何処かで、必然が加わっているのかも知れません』
質問を繰り返すうちに舞人は、目の前に降臨した女神が、明らかに敵意が無いコトに気付いていた。
「トゥーラ・ンと、言ったな。ボクを殺しに来たんじゃないのなら、お前の目的はなんだ?」
『わたくしの目的は、貴方にも真実を伝えるコト』
「ボク……にも?」
『もう1人は……』
「サタナトスって、ワケだ……」
『はい。かの者も、アト・ラティアが開発した王家の剣を使い、王としての資格を持つ者として朧の間へと導きました』
「サタナトスの、プート・サタナティスが、王家の剣!?」
『この時代での名称は知りませんが、王家の剣は人を魔物へと変化させる剣です。王家の剣を持つ王は、無敵の軍隊を容易に手に入れられました』
「だけどプート・サタナティスは、魔力の高い人間でないと、魔王にはできないんじゃ?」
『王家の剣に、本来そのような制約はありません。かの者が、まだ未熟だと言うコトでしょう』
トゥーラ・ンの言葉を聞き、舞人は背筋が凍る思いがした。
「サタナトスに、王家の剣を握らせちゃいけない。これ以上アイツに戦力が増えたら、とんでも無いコトになる。まだ能力を失っているウチに、なんとかしない……と」
舞人はいきなり、膝から崩れ落ちる。
「クッ、まだ痛みが……」
『貴方も、まだ科学の剣を使いこなしては、いないようですね』
女神型の重機構天使(メタリエル)は、舞人の肩に優しく手を添えた。
「か、身体の痛みが……和らいでる!?」
女神の手から水色の光が波状に波及し、舞人の身体の傷を癒す。
『貴方にも、宮殿の朧の間へ入ってもらうつもりでしたが、サタナトスとそこまで敵対しているのであれば、かの者がいる天空都市へ赴くのは厳しいでしょうね』
「アイツは、シャロリュークさんを殺し、ヤホーネスの王都までメチャクチャにしたんだ。慣れ合えるワケが、無いだろ」
『仕方ありませんね。今のところ、この時代の政争に加わるつもりはありませんが、王家の血の復活は急務ですので……』
トゥーラ・ンが両腕と羽根を広げると、前の空間に真っ白なスパークが発生する。
やがてその中心から、鏡のように輝く肌を持った少女が現れた。
「こ、これは……なんなんだ!?」
『彼女は、ラ・サ。わたくしの、従者です』
ラ・サと呼ばれた少女の肌が、肌色へと変化する。
頭の固そうな銀色の髪も、栗色へと染まって行った。
「パ、パレアナ!?」
『ラ・サは、自身と大きさが同じくらいであれば、あらゆる物へと変化できるのです』
「う、うわあ!!」
舞人は、一糸纏わぬ幼馴染みの少女を、受け止めた。
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