ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第07章・第16話

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帰還したAI

 尖った電波塔は、先端に近づくに連れ、空気遠近法によって色彩がモノトーンに近づく。

「電波塔のテッペンって……下からじゃ、人形が居るかどうかなんてわからないぞ」
 ボクの両目の視力は1.2はあるハズだが、小さな人形までは見えなかった。

「展望台まで登ってみるか、それともここで待つか……どうする?」

「せ、先生。今、ユミアから連絡があって、大変なコトが起きてるんだ!」
「レアラとピオラが、電波を乗っ取ってライブを始めちゃったんだ!」
「な、なんだってッ!?」

 ボクはスマホから聞こえた双子姉妹の言葉に、驚きを隠せずタワーを見上げる。

「ユミアが言うには、現在の電波塔は新しいのが建って、電波塔としての役目を終えてるんだケド……」
「新しい電波塔になにかあった時の、バックアップの役割りがあるんだって」

「つ、つまり、この古い電波塔でも、電波を発信できるってコトか!?」
 カトルとルクスは、緑色の看板のコーヒーショップから、ボクに情報を送り続けてくれた。
恐らく、キャラメルマキアートを飲むヒマも無いだろう。

「もちろん、新しい電波塔みたいに高くないから、ライブ中継の電波が届く範囲も限られるケド……」
「でも、実際に2人のライブ動画が、ユークリッターにアップされてるんだ」

「店内でテレビを見れるスマホ使ってる人が居て、普通に2人のライブが見られちゃってるしね」
「本来なら今の地上波とバッティングするらしいだケド、ビミョウに周波数を変えてるみたい」

「わかった。意味があるか解らないが、展望台まで登ってみる!」
 ボクは居ても立ってもいられず、タワーの中へと駆け込む。
チケットを買って、展望台までのエレベータに乗った。

 レトロな未来感のゴンドラは、鉄骨剥き出しのタワーの中を駆け上がる。
ゆっくりと下になって行く、大都会。

「大変な騒ぎでも、なってなければいいが……」
 展望デッキに降りると同時に、急いでスマホを取り出し、周りの観光客の様子も探る。

 けれども殆どの人は、自分たちの居る電波塔でなにが起きているか気付いておらず、デッキから見える遠くのビルや景色に見入っていた。

「展望台まで来てみたが、どうにかなるモノでも無いか……」
 ガラス張りの床の上から、真下の小さな車を見て歓声を上げる子供の姿もある。

「先生、そっちはどう?」
「お店の中でも、少しずつ騒ぎになって来てるよ」

「こっちは、観光が目的のお客さんが殆どだからな。スマホを使うにしても、カメラか動画の撮影がメイン……ん?」

「ねえ、見て見て。これ、ヤバくな~い?」
「レオラとピオラだよね、今いる電波塔でライブやってんだって」
 デッキから見える風景などお構いなしに、スマホの扱いに長けた女性たちが騒いでいた。

「イヤ、こちらでも徐々に、騒ぎになりつつあるな」
「ライアが言うには、やってるコトは電波ジャックだから、大問題なんだって」
「でも、AIを罪に問えるかは、解らないみたい」

「弁護士のタマゴらしい見解だな。ボクは電波塔の保守管理の責任者辺りに、ライブを止めされないか頼んでみる。また、進捗(しんちょく)があったら連絡をくれ」

「わ、わかったよ」
「先生も、ムチャはしないでね」
 カトルとルクスからのスマホを切ると、ボクは受付のお姉さんに話して今の状況を説明する。

 困惑を顔に浮かべる、お姉さん。
サングラスをかけたオールバックの男の怪しい言動に、警備員も寄って来る。

「で、ですから、現状を確認して下さい。今、2人のライブが話題になっているハズです!」
 ボクは必死に窮状を訴え、なんとか保守管理の責任者まで辿り付く。

 ……その時、ポケットのスマホが震えた。

「どうした、何か新しい情報でもあったのか!?」

「戻って来ちゃった……」
「ボクたちの、頭の上……」

「……へ?」

 どうやらレアラとピオラは、ボクが必死に説得を試みている間に、カトルとルクスの頭の上に、帰還を果たしていた。

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