帰還したAI
尖った電波塔は、先端に近づくに連れ、空気遠近法によって色彩がモノトーンに近づく。
「電波塔のテッペンって……下からじゃ、人形が居るかどうかなんてわからないぞ」
ボクの両目の視力は1.2はあるハズだが、小さな人形までは見えなかった。
「展望台まで登ってみるか、それともここで待つか……どうする?」
「せ、先生。今、ユミアから連絡があって、大変なコトが起きてるんだ!」
「レアラとピオラが、電波を乗っ取ってライブを始めちゃったんだ!」
「な、なんだってッ!?」
ボクはスマホから聞こえた双子姉妹の言葉に、驚きを隠せずタワーを見上げる。
「ユミアが言うには、現在の電波塔は新しいのが建って、電波塔としての役目を終えてるんだケド……」
「新しい電波塔になにかあった時の、バックアップの役割りがあるんだって」
「つ、つまり、この古い電波塔でも、電波を発信できるってコトか!?」
カトルとルクスは、緑色の看板のコーヒーショップから、ボクに情報を送り続けてくれた。
恐らく、キャラメルマキアートを飲むヒマも無いだろう。
「もちろん、新しい電波塔みたいに高くないから、ライブ中継の電波が届く範囲も限られるケド……」
「でも、実際に2人のライブ動画が、ユークリッターにアップされてるんだ」
「店内でテレビを見れるスマホ使ってる人が居て、普通に2人のライブが見られちゃってるしね」
「本来なら今の地上波とバッティングするらしいだケド、ビミョウに周波数を変えてるみたい」
「わかった。意味があるか解らないが、展望台まで登ってみる!」
ボクは居ても立ってもいられず、タワーの中へと駆け込む。
チケットを買って、展望台までのエレベータに乗った。
レトロな未来感のゴンドラは、鉄骨剥き出しのタワーの中を駆け上がる。
ゆっくりと下になって行く、大都会。
「大変な騒ぎでも、なってなければいいが……」
展望デッキに降りると同時に、急いでスマホを取り出し、周りの観光客の様子も探る。
けれども殆どの人は、自分たちの居る電波塔でなにが起きているか気付いておらず、デッキから見える遠くのビルや景色に見入っていた。
「展望台まで来てみたが、どうにかなるモノでも無いか……」
ガラス張りの床の上から、真下の小さな車を見て歓声を上げる子供の姿もある。
「先生、そっちはどう?」
「お店の中でも、少しずつ騒ぎになって来てるよ」
「こっちは、観光が目的のお客さんが殆どだからな。スマホを使うにしても、カメラか動画の撮影がメイン……ん?」
「ねえ、見て見て。これ、ヤバくな~い?」
「レオラとピオラだよね、今いる電波塔でライブやってんだって」
デッキから見える風景などお構いなしに、スマホの扱いに長けた女性たちが騒いでいた。
「イヤ、こちらでも徐々に、騒ぎになりつつあるな」
「ライアが言うには、やってるコトは電波ジャックだから、大問題なんだって」
「でも、AIを罪に問えるかは、解らないみたい」
「弁護士のタマゴらしい見解だな。ボクは電波塔の保守管理の責任者辺りに、ライブを止めされないか頼んでみる。また、進捗(しんちょく)があったら連絡をくれ」
「わ、わかったよ」
「先生も、ムチャはしないでね」
カトルとルクスからのスマホを切ると、ボクは受付のお姉さんに話して今の状況を説明する。
困惑を顔に浮かべる、お姉さん。
サングラスをかけたオールバックの男の怪しい言動に、警備員も寄って来る。
「で、ですから、現状を確認して下さい。今、2人のライブが話題になっているハズです!」
ボクは必死に窮状を訴え、なんとか保守管理の責任者まで辿り付く。
……その時、ポケットのスマホが震えた。
「どうした、何か新しい情報でもあったのか!?」
「戻って来ちゃった……」
「ボクたちの、頭の上……」
「……へ?」
どうやらレアラとピオラは、ボクが必死に説得を試みている間に、カトルとルクスの頭の上に、帰還を果たしていた。
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