変装とお兄ちゃん
全面がガラス張りのエレベーターに乗り、下界を目指そうとするボク。
するとガラスに、金髪の双子が映っているのに気付く。
「カトル、ルクス……お前たち、どうして!?」
「レアラとピオラの面倒を見るのが、ボクたちの仕事だからね」
「2人が居なくなったのなら、ボクたちも責任を問われるんだ」
振り返ったボクに、天使のように微笑む2人。
「それに先生、下を見てみなよ。今日もマスコミの連中が、大勢押し掛けて来てる」
「こんな中に飛び出して行ったら、どうなるか……もしかして忘れてた?」
「あ、慌てていたからな。マーク先生の件やアイドルユニット発表の件で、多少はボクから注目が剥がれたとは言え、まだこのまま正面ロビーから外に出られる状況じゃ無いか」
日の光を浴びた街を目にしてやっと、冷静さを取り戻したボク。
1階でゴンドラは止まったが、ボクはB1Fのボタンを押してドアを閉める。
地下駐車場で降りると、かつてと様子がかなり変っていた。
「ここと、ユークリッド本社ビルを結ぶトンネル工事も、そろそろ完成に近づいているね」
「そうだ。このまま地下トンネルを通って本社まで行って、そこから出ようよ」
天空教室のある超高層タワーマンションと、ユークリッドの超高層本社ビルは、今や地下トンネルによって結ばれようとしている。
それを提案したのは、なにを隠そうこのボクなのだ。
「確かにここよりは、張っているマスコミの数も少ない。そうするか」
ボクはカトルとルクスを引き連れて、ユークリッドの本社ビルへと向かう。
「ねえ、先生。その格好に素顔じゃ、流石にすぐバレるよ」
「ボクたちは私服だし、こうやってエンジェルトリックブラシで髪の色を変えれば……」
2人の星のような金色の髪が、見る見るライトなオレンジ色に染まった。
「とりあえず、変装用のサングラスは買ってカバンに忍ばせて置いた。本社のビジネスマンに紛れれば、目立たないんじゃないか?」
ボクは髪型をオールバックに整え、サングラスをかける。
「アハハ、先生イメージ違い過ぎィ!」
「なんか、その手の人みた~い」
「いいから行くぞ、お前たち」
ボクはオレンジ色の髪の双子と共に、本社ビルの正面玄関から外へと出る。
「やった、誰もボクたちをカメラで追って無い」
「本社ビルのマスコミの数が、元々少ないってのもあるだろうケドさ」
ボクとカトルとルクスは、そのまま歩道を歩いて地下鉄へと駆け込んだ。
ホームで2人の切符を買い、ボク自身はしばらく使っていなかった定期券で改札を開け、ホームに雪崩れ込んで来た車両に乗る。
「さて……と。慌てていたから、なんの情報も持たずに出て来てしまったな」
地下を走る電車の中は、午前10蒔なだけあって乗客も疎らで、ボクたちはシートに座った。
「レアラとピオラは何処へ行ったんだろ、情報が欲しいよね?」
「ユミアなら、情報集めるの得意だよね。天空教室に連絡を取って……?」
少ない乗客の視線が気になった、双子姉妹。
「と、とりあえず、次で降りるか」
ボクが中吊り広告に目をやると、1面全てをユークリッドの話題が独占していた。
「『先生とユミア、マーク先生の三角関係、今後の発展やいか』だって」
「『新たに誕生した、アイドルユニット。中でも注目は、レアラとピオラのAIアイドル』か」
ホームに降りた双子姉妹は、中吊り広告の内容を口に出す。
「その2人が、今や行方不明なんだ。あと、人前で天空教室の話題は避けた方がいいな」
「了解だよ、身バレしちゃうものね」
「ボク、ユーちゃんに連絡とってみるよ」
「ユーちゃん? なるホド、あだ名で呼ぶ手があったか」
ユーちゃんこと、ユミアに連絡を取る2人。
艶やかなオレンジ色の髪が、ウンウンと頷いている。
「お兄ちゃん。動く小さな人形の情報が、街の中心の方で上ってるんだってさ」
「ユークリッターやSNSにもアップされてるから、間違いないんだって、お兄ちゃん」
上目遣いのカトルとルクスが、甘えた表情でボクを見る。
「お、お兄……ヘンな設定を盛らないでくれ」
「でも、行き先は決まったね、お兄ちゃん」
「あ、電車来た。乗ろうよ、お兄ちゃん」
ボクは、急にできた妹に両腕を掴まれ、街の中心に向かう地下鉄に乗り込んだ。
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