オアシスの激戦~4
「……あ……ああ……」
砂の上に立った、美しい少女の石像。
その表面が剥がれ落ち、下から綺麗な白い肌が露出した。
「……うう……ぐ」
やがてそれは石像全体に及び、中からパッションピンクの髪をした少女が現れる。
「ァア……アタシ……一体どうし……て?」
少女が自分の腕を見ると、ポロポロと剥がれた石の欠片が、汗で纏わり付いていた。
「カーデリア、呪いが解けたのじゃな」
「よ、よかったですな」
ルーシェリアは素直に喜んでいるが、イヴァンは背中を向けている。
「リザードマンのコたちは、どうしたの?」
「それなら周りに首だけとなって転がってはおるが、見るで無いぞ!」
「そうだった、そうだった。また石にされるトコだったわ」
「それよりカーリー。言い辛いのじゃが……」
「なあに、シェリー。シャロと戦ってる、魔王のコト?」
「イヤ、お主の服のコトじゃよ。どうやら再生されたのは、お主と弓のみの様じゃ」
「へ……?」
カーデリアが真下を向くと、小さな胸と何も身に付けていない下半身が目に飛び込んで来た。
「きゃああっ!」
少女は、膝を抱えてしゃがみ込む。
「イ、イヴァンさん、あっち向いて!」
「す、既に向いてるであります!」
カーデリアは、騎士団長が背中を向けていた理由を理解した。
「お、お前たち。これを……」
「はい、父上」
イヴァンはマントを脱いで3人の娘たちに渡すと、マントはカーデリアの元に運ばれる。
「有難う、イヴァンさん」
一糸纏わぬ少女は、慌ててマントで全身を覆った。
「い、いえ。それより此奴(こやつ)ら、頭だけとなってもまだ生きておりますぞ」
「身体の方も、ジタバタ動いておる。大した生命力じゃな」
「まるで、トカゲみたいね」
砂漠に散らばった、蛇の髪をした少女たちの身体。
その斬り口からは、ドス黒い緑色の血が流れ出る。
「それより、赤毛の英雄と魔王との戦いは、まだ決着しておらぬ様じゃ」
「そうね。早くトドメを刺して、シャロに加勢しないと……」
砂丘の向こうでは、ケイオス・ブラッドとシャロリュークの戦いが続けられていた。
「悪いんだケドさあ。キミたちを、アイツの元へ行かせるワケには行かないんだ」
オアシスに、いきなり少年の声が響く。
「この声……サタナトスかえ!?」
慌てて剣を構える、ルーシェリア。
手には、因幡舞人武器屋の倉庫にあった、魔眼剣『エギドゥ・メドゥーサス』が握られていた。
「あそこよ、岩の上!」
カーデリアが指差した方向には小さな岩山があって、その上に金髪の少年が座っている。
「キミたち、ボクの姉妹たちに随分と酷いコトをしてくれるじゃないか」
「姉妹……じゃと?」
「コイツらは、ボクと同じ教会で育った姉妹たちなんだ」
「この化け物たちが……アンタの姉妹ですって!?」
「酷い言われようだね。キミたちが首を刎ね飛ばした彼女たちも、元は人間なのさ。ジル、ミリィ、シア、セリア、サティと言ってね。ボクやアズリーサと同じ孤児だよ」
「コ、コイツ、自分から情報を……」
「キミたちが、ボクのコトを嗅ぎまわっていたのは知っていたさ。人の過去を詮索するなんて、趣味の悪いコトをするじゃないか」
「それではこの者たちは、ただの村娘であると?」
「でも、おかしいわよ。人数が合わないわ」
散らばっていた頭の数は、明らかに5人より多い。
「まあ色々とあってね。セリアとサティが2人ずつ、ジルとミリィとシアが3人ずつに別れたんだが……キミらにとっては、どうでもいい情報かな」
「この者たちは、お主が化け物にしたのじゃな?」
「イヤ、アズリーサさ」
金髪の少年は、普段とは違う剣を抜いた。
5人の少女はかつて、オアシスに生息していたリザードマンによって引き裂かれて殺され、アズリーサの力でリザードマンと融合して復活する。
その奇跡の復活劇の中で、少女たちは13人に増えていた。
「でも、ただのリザードマンの亜種に過ぎなかった彼女たちに、ゴルゴンの力を与えてやったのはこのボクなんだケドね」
サタナトスは、剣を天高く掲げる。
「シェ、シェリー。あの剣って!?」
カーデリアは、ルーシェリアの手にした剣を確認した。
「ア、アレは、妾の魔眼剣『エギドゥ・メドゥーサス』なのじゃ!!」
金髪の少年の剣は、ルーシェリアの物と同じ形をしている。
「いいや、違うよ。この剣は、魔眼剣『エギドゥ・エウリュアレース』」
剣からは黒いオーラが放たれ、それが斃れていた少女たちの身体に纏わり付く。
「キミの剣とは、姉妹に当たる剣さ」
「リ、リザードマンの、少女たちの身体が!?」
「くっついて、元に戻って行くわ!?」
サタナトスの周囲に再び、13人の少女たちが復活した。
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