オアシスの激戦~3
「ムウ。これはやはり、石化の能力……!?」
ルーシェリアは咄嗟に目を閉じると、身構えた。
「しかし何故じゃ。リザードマン風情が、石化など使えるハズも無かろうに」
聴覚と魔族の勘で、オアシスに不気味にたたずむ少女たちの気配を探る。
「どうやら、ただのリザードマンでは無いようですな、ルーシェリア殿」
「……お主、イヴァンかえ。彼奴らの眼を見るで無いぞ」
「心得ております」
イヴァン騎士団長は、研ぎ澄まされた剣を鞘から抜く。
すると刀身に、蛇の髪をした少女たちの姿が映った。
「なる程……考えたモノじゃな」
「いにしえの英雄の、技にございます」
「あの髪……メドゥーサか、ゴルゴン姉妹の能力を持った者たちかえ」
「数は、10人以上おりますぞ」
「それにしてもお主らまで、ケイオス・ブラッドとか申す魔王に、飛ばされたのじゃな」
「はい。娘たち共々、次元の狭間に飲まれてしまいました」
イヴァンは剣で自らのマントを斬り、それで3人の娘の眼を隠す。
「どうやらあの魔王は、シャロリューク殿との1対1の対決を望んでいる様ですな」
「妾たちには、あの者たちの相手をするようにも望んでいるのじゃろうな」
皮肉を口にする、漆黒の髪の少女。
「しかし油断をすればカーデリア殿の様に、石にされてしまいますぞ」
砂漠の太陽の下には、不釣り合いな美しい少女の石像。
それはかつて、カーデリア・アルメイダと呼ばれていた。
「早くヤツらを倒して、カーリーの呪いを解いてやりたいのじゃが……」
「このままでは、近づくコトすら儘(まま)なりませんぞ」
「父上、まずはボクたちが仕掛けるよ」
「ボクたち、オオカミだから目が見えなくたって平気」
「アイツらの力を、探ってみよう」
目隠しをしたパトラ、パニラ、パメラが、イヴァンを見上げる。
「本来であれば大切なお前たちを、危険な目に遭わせたくは無いのだが……」
「そうも言っておれん様じゃぞ。ヤツらの方から、仕掛けて来おった」
ルーシェリアの黒い剣に、迫り来る蛇の髪をした少女たちが映った。
「キヒヒ……」
「お前たちも、石になれ!」
「この砂漠で、砂に埋もれな」
少女たちは小柄だったが、腕や脚には鋭い爪があり、それを巧に使って攻撃を繰り出して来る。
「マ、マズいのじゃ。眼を閉じたまま、かわせる攻撃では無いのじゃ」
「こ、このままでは、いずれ隙を突かれて石に……」
ルーシェリアもイヴァンも、少女たちの攻撃に苦戦する。
その様子を、魔王ケイオス・ブラッドは満足げに眺めていた。
「妹たちも、新たなる能力に目覚めつつある様だな。ククク」
「妹だぁ?」
赤毛の英雄が、エクスマ・ベルゼの炎を纏って攻勢に転じる。
「アレが、テメーの妹だって言うのか?」
「血が繋がっているワケじゃ無いが、共に育った者たちだ」
砂漠の空に、爆炎と虚無の黒い球が入り混じる。
「ま、まさかお前たちは……サタナトスの!?」
「ああ、兄弟だ……」
エクスマ・ベルゼと、刻影剣・バクウ・プラナティスが、激しく斬り結んだ。
「クケケ……ケイオス兄さまも、赤毛の英雄と殺り合ってるみたいね」
「次はアタシたちが、お前らを石像にしてあげるよ」
砂漠の砂に足を取られ消耗し切った2人に、襲い来る蛇の髪の少女たち。
「アイシクル・トラストォ!!!」
オオカミ少女の、可愛らしい声がシンクロする。
「ぎゃああッ!!!」
「ぐええぇぇ!?」
蛇の髪の少女たちが、醜い悲鳴を上げた。
「い、一体、何なのじゃ!?」
「砂漠に……氷のツララが!!」
ルーシェリアとイヴァンの前には、無数のツララが砂漠の砂から生えていた。
「あ、脚が……脚がぁぁ!?」
「うげ……ぐう!」
ツララは、少女たちの様々な部位を貫いている。
「こ、これは、お前たちがやったのか?」
3人の娘を、見下ろす父親。
「うん、そうだよ」
「父上、今だよ」
「アイツらの姿、いっぱい映ってる」
イヴァンが周りを見ると、突き立ったツララのどれにも、蛇の髪の少女たちの姿が映っていた。
「悪しき娘たちよ、済まぬが容赦は出来ぬ」
「今までの痛み、そっくり返すのじゃ!」
2人の剣が、蛇の髪の少女たちの頭を、次々に刎ね飛ばした。
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