ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第05章・第32話

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マウント

「確かに、影響力のある人間とそうで無い人間との切り分けは、海外の大手動画サイトや検索エンジンでもやっているものね」
 栗毛の少女は、寂しそうな顔をしながら腕を組む。

「今の時代、影響力ってのは重要な要素(ファクター)だからね」
 デスクに、軽く腰を掛ける久慈樹社長。

「有名になる方法や分野は様々だが、影響力の高い人間の言葉はより注目され、そうでない人間の言葉は無視される。今の世の常さ」

「でもそれって、格差を助長してしまうんでは無いでしょうか?」
 モニターに映る生徒たちは、何の疑問も持たずに興味津々アプリを使っている。
そのコトに、ボクは危惧を抱いた。

「今さら、何を言っているんだい。資本主義ってのは、格差を助長するモノだろう」
「確かに、そう言った側面は否定出来ませんが……」

「事業に成功する者と失敗する者、大金を得るものと全てを失う者、それをきっぱりと差別するのが資本主義の世の中さ」

「今、アプリを使っている彼女たちの多くは、両親が教民法やユークリッドに何らかの影響を受け、職を失い敗者となりました。格差は本人だけでなく、その子供や家族にも影響を与えてしまうんです」

「知っているよ」
 久慈樹社長は、それがどうしたとばかりにため息を吐く。

「だがね、現在の日本は資本主義だ。アメリカや西洋は言うに及ばず、中国ですら共産主義だなんてとても呼べない代物じゃないか」

「え、そうなの?」
「そりゃあ……共産主義のありかたは本来、全員が平等に暮らし、平等に働き平等な対価を得るモノだと思う。今の中国は、政治体制はともかく経済は完全に資本主義だよ」

「キミもそこは解ってるじゃないか。むしろ日本の方が、共産主義に近い考えの国民が多いからね」
「え、そうなの……って、なんかわたし、バカみたいじゃない!」
 栗毛の少女が、地団太を踏んでいる。

「今の日本は、平等だの公平だのを叫ぶ輩が実に多い。自分たちが資本主義経済の世の中に生きている自覚を、持ち合わせていない人間のなんと多いコトか」

「それを創り出した、今の大人たちに危惧を抱いている……ってところですか?」
「イヤ、大人たちはよくやったと思うよ。経済大国・日本を創った時代の大人たちはね」
 日本にも、そんな輝かしい時代が確かにあった。

「彼らが築き上げた日本に生まれたからこそ、素晴らしいインフラが整った街で自由に暮らし、高度な医療を受けられ、会社を立ち上げ社長までさせて貰ってる。世界じゃ、それが出来ない国も多いからね」

「なんだか、含みのある言い方ね」
「ボクが危惧を抱いているのは、むしろ若い世代の方さ」
「え、そうな……もう、わたしはアンタの驚き役か!」

「資本主義の世の中は、結局のところマウントを取るか取られるかだ」

「でもマウントなんて取ったら、嫌われるわよ?」
「でもマウントを取らなかったら、他人に勝てない。資本主義の世の中じゃ、致命的な弱点さ」

「それは……そうかもだケド」
 久慈樹社長に対しては、やたらと気の強いユミアも、普段は人の目を気にする女のコだ。

「今の日本の若いヤツらは、大体はこんなモンさ」
 天空教室の少女たちが映っている、モニターを指さす久慈樹社長。

「他人が与えたアプリを、疑問すら持たずに喜んで使っている。SNSの分野じゃ、ほぼ全て海外で開発されたアプリなのにね」
「海外製のSNSで、動画配信とかしてんなってコト?」

「彼らはまだ、マシな方だよ。ポジションを得て、リスナーを集め支持を得て金を稼いでいる。つまりは、マウントが取れてるってコトさ」
「問題は、その視聴者(リスナー)にあると?」

「賢いじゃないか。その通りだよ。動画配信者を信奉する彼らの頭は、ポジションとマウントがほぼ同義語だってコトにすら、理解が及んでいない」
 それ、ボクもなんだが……。

「マウントを取られるのを嫌がる文化が、彼らの脆弱性を顕している。技術大国なんて呼ばれた時代は遠い昔で、今の日本はアジアで唯一成長できない国に成り下がっているからね」

「確かに今の日本は、色んな分野で世界から遅れを取ってます」
「液晶モニターやメモリー。多くの分野で韓国や中国企業に追い抜かれ、後塵を拝している状況さ」
「うん、特にSNSの分野なんて、酷いモノよ」

「だからボクが生み出すのさ。これから世界で戦って行ける、新たなSNSをね」

 

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