ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第03章・第01話

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雨の夜

 ボクは寝室を出ると、ユミアも付いてきた。

 教師としての契約条項や、給料を振り込む銀行など一通りの書類にサインしてユミアに渡す。
「これでいいかな?」「そうね、OKよ……」
 そう口にした栗色の髪の少女は、不安が顔に出ている。

「やっぱ心配か? 今のところ彼女たちが、キミに何か危害を加えるようには思えないが……」
 ボクが契約を結んだ少女は、かつて学校に行けないくらいのイジメに遭っていた。

「別に……もう子供じゃないんだから、余計なお世話よ!」
 そんな妹を見かねた兄である倉崎 世叛は、ユー・クリエイター・ドットコム、通称ユークリッドを立ち上げる。

「そうか。でももし何かあったら、スマホかメールで知らせてくれ」
「必要ないって、言ってるでしょ!」
「アレ~先生まだいたの。これからお風呂なんだけど?」

「このマンション、屋上がプールと巨大浴場なのだそうですわ。ジャグジーもあるみたいですよ、お姉さま!」
「そうなんですの? わたくしの美しさにも、一層の磨きが……」

 レノンや、アロアとメロエの双子姉妹の視線が突き刺さる。
「わ、わかったよ。すぐに帰るから」

 慌てて玄関に向かうボク。
「みんな仲良くやるんだぞ。じゃあ、また明日な」

 部屋を出て、外を見渡せるエレベーターに乗り込むと、夜の街に静かに雨が降っていた。
「今日の授業……彼女たちはどう思ったのだろう?」

 夜のキャンバスを背景に、透明なガラスに映った自分に自答する。
「ユークリッドが存在する現在、本当に彼女たちにボクの授業は必要なのか。教師になりたいっていうボクのエゴを、押し付けてるだけじゃないのか?」

 高層マンションのエレベーターは、雨と共に地面に向かって降下した。

 ボクはその日、教え子となった少女たちが、どんな風にジャグジー付きの巨大風呂に入り、どんなパジャマパーティーを開いたのかを知らない。


「願わくば……和気あいあいのパーティーであるコトを、祈るばかりだ」
 生徒たちの心配をしながらマンションを出ると、勢いを増した雨が土砂降りとなってアスファルトに叩きつけられていた。

「マ、マジかよ!? 傘、持ってきてねーぞ」
 ボクは覚悟を決めると、雨の街に駆け出した。

 翌日、退去期限の迫ったアパートの一室で目を開けると、なんだか視界が揺れる。
「やっぱこうなったか。途中のコンビニでビニール傘は買ったが、それまでにかなり濡れたからなあ」

 契約した先生としての授業は、午後のみだった。
「とりあえず、午後までに薬で抑え込むしかないな。それにもういい加減、次の転居先を探さないと路上で寝る羽目になるぞ……」

 アパートの扉を開け外に出ると、卯月さん、花月さん、由利さんの三人の女子高生も、どこかへでかけようとしているところだった。

「アレ、先生も今からお出かけなんですか?」
「でもなんか、フラついてません?」
「顔も赤いですし、熱があるんじゃ……」

 三人は同じアパートの同居人で、ボクがまだ大学の教育学科に在籍していた頃に、教育実習で派遣された中学で受け持った生徒たちだ。

「ああ、昨夜の雨にやられてね。でも大したコトは無いから、ドラッグストアの薬でなんとかなるだろ」

「そうなんですか? 気をつけてくださいね」
「わたしたち、これからライブ見にいくんですけど、先生もどうですか?」
「もちろん、ドラッグストアまで付き合いますから」

「え? こんな時間から、ライブがあるの」
「駆け出しのインディーズバンドだから、午前中の安そうな時間帯にライブするコトが多いんですよ」

「そ、そうなのか? でも、チケットが……」
「全然余ってま~す。もちろん、無料でいいですよ」

 ボクは三人の女子高生に連れられ、ライブハウスに行くことになってしまった。

 

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