美容と無知
アロアとメロエは、カトルとルクスの双子に比べると、体つきが女性的でフェミニンな印象を受ける。
「こんなに小規模なクラスに、双子が二組もいるなんて驚いていたところだったのよ。ホントに一つのベットで構わないのかしら? なんなら、今から大急ぎで届けてもらっても……」
パソコンを、ポチポチするスタイルの買い物だけは得意な女の子が、四人に問いかけた。
「心配ないよ、ユミアさん。むしろ、二人で寝れる方が好都合なんだ」
ボーイッシュな金髪の双子の妹である、ルクスが姉を見る。
「実はボクは、少しだけ病弱なんだ。妹のルクスには迷惑をかけてしまって、申し訳なく思っているよ」
「だからボクたちは、二人で一つのベッドで全然問題ないのさ」
カトルの体を気遣うルクスは、姉の体をしっかりと支えながら言った。
「そ、そう? 問題がないのであればいいけど、もし問題が発生したら言って。すぐに対処しますから」
ユミアも元々の部屋の主として、まるで大家のように振舞う。
彼女も、実の兄である倉崎 世叛を病気で亡くしているのだ。
病弱な姉を心配するルクスの気持ちが、よく解かるのだろう。
「アロアとエロメも、問題は無いんだな?」
ボクは、もう一組の双子に質問を入れてみる。
「例えあったとしても、それによって争うなど、わたくしたちの趣味ではありませんわ」
「醜い争いは、美しくない者たちに任せておけば良いのです」
アロアとエロメは、口に人を軽蔑するような笑みを浮かべながら言った。
「ずいぶん棘のある言い方をするわね」
正義に対する矜持を持ち合わせる、ライアが二人に鋭い視線を向ける。
「暴力を肯定するつもりは無いが、時に自分の正義のために戦う必要もあるのではないか?」
「争いになんの価値があると言うのです? 暴力、戦争、破壊……それらは美しいものを破壊してしまう、忌まわしく醜いものです」
姉のアロアが、ライアの考えに反論した。
「仰られる通りですわ、お姉さま。醜いモノに価値などございません」
妹のエロメは、姉の言葉に同調する。
「別に戦争や暴力を賛美しようとは、わたしも思っていません。ですがこの世界には、戦争も犯罪も暴力も存在するのですよ。警察官がピストルを持ち、戦争を放棄した日本であっても、自衛隊の名の元に最新鋭の戦闘機や戦車、実質的な空母を保持しているのです」
ライアの言葉の端々に、正義とは別の何かが、顔を覗かせている気がした。
「綺麗ごとだけで、世の中が周っていないのは理解しますが、別に自らがそんな醜いモノに、付き合う必要は無いのではなくて?」
「お姉さまの仰られる通り……女性はもっと、優雅で美しくなくてななりませんわ」
「どうやら、このまま議論しても平行線のようね? わたしも自分の正義を、他人にまで押し付けようとは思っていないわ」
舌戦は、ライアが一歩引き下がる。
「だけど、アロアとエロメってさ。テレビのイメージ通りだよね。美に対する意識、ハンパないモン」
「……なあ、レノン。二人はテレビに出てるのか?」
「ええッ!? 先生、知らないのォ?」
「エステとかトリートメントとか、何本ものCMに出てるわよ」
「そ、そうなんだ、メリー」
「先生、それ本気で言ってるんですか?」
「ダメよ。だって先生、『エンジェル・トリック・ブラシ』すら知らなかったんだから」
そう……ボクはユミアにコンビニで見せてもらうまで、髪の色を変えられるブラシの存在を、知らなかった。
「ええ!? どうかしてるよ、先生!!」「そ、それは、ちょっと……」
レノンもアリスも、目を丸くしている。
「し、信じられませんわね。今時、そんな方がいらっしゃるなんて……!?」
「あ、呆れてしまいますわ、姉さま……」
ボクの生徒はおおむね、アロアとエロメと同じような表情でボクを見た。
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