ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第10章・EP022

ギルバート

 ハンバーガーショップを出たボクと沙鳴ちゃんは、再びライブハウス・ギルバートの前に立っていた。

「実はわたし、お兄ちゃんと1回だけ、こんな感じの地下ライブハウスに来たコトがあるんです」
 ライブハウスの、地下へと続く階段を覗き込みむ沙鳴ちゃん。

「あッ! ダーリン、見て。シャッターが開いてますよ」
「ホ、ホントだ……」
「あの題醐(だいご)ってヒトが、開けたのかな?」

 地下へと続く階段を降りた先の、シャッターが開いていた。
ハンバーガーショップに行く前は、確かに閉まっていたのに。

「行ってみましょう!」
「ウ、ウン……」
 沙鳴ちゃんに促(うなが)され、緊張しながら階段を降りるボク。

 シャッターが上がった場所には、古びた両開きのドアがあって、ボクたちは中へと足を踏み入れる。
真っ黒な壁の小さな受付は、オレンジ色のランプで照らされていた。
掲示板には、バンドのメンバー募集やライブ告知のチラシが、いっぱいに貼ってある。

「オヤ、お客さんかい。悪いんだケド、もう少し待ってくれる。今、開けたところなのよ」
 受付には誰も居なかったが、折れ曲がった通路の向こうから、紫色の長い髪のお姉さんが出て来て、ボクたちに向かって言った。

「あの……わたし達、お客じゃ無いんです。実は、題醐って人に用があって」
 沙鳴ちゃんが、用件を代弁してくれる。
た、たすかるなあ。

「題醐……ってアイツ、またなんかやらかしたのかい?」
 腰に両手を当て、ヤレヤレといった表情を浮かべる女のヒト。

「いえ、そうじゃなくて。わたし達、実はサッカークラブの者なんです」
「サッカークラブ? ここは、ライブハウスだよ」

「コ、コレを……」
 慌てて名刺を差し出す、ボク。

「デッドエンド・ボーイズだって? 変わった名前の、クラブだね」
 名刺の内容を確認する、女のヒト。
すると通路の向こうから、ドラムの音が響いて来た。

「ま、いいか。なんだか知らないケド、アイツに用があるんだね」
 完全に納得はしていない感じだったケド、女のヒトはボクたちを中へと案内してくれる。

 折れ曲がった通路の先は、小さなライブ会場で、30人くらいが入れる観客席があった。
照明も当てられてない小さなステージには、黒いドラムセットがあって、真っ赤な髪の男の人がドラムを叩いている。

「アレ。思ったより、音が小さいですね?」
「まだスピーカーにも、繋いでないからね。それに地下って言っても、ご覧の通り年季の入ったスタジオだから、多少は音が洩れちまうんだ。本番はともかく、練習はあんな感じさ」

 へェ、そうなんだ。
音楽のコトってあんまり知らないケド、裏はこんな感じなのか。

「鷹春(たかはる)、お客さんだよ」
「ア? 客だ? まだ、1時間前だぞ!」
 ドラムの音が、鳴りやんだ。

「そうじゃ無くって、アンタに用があるんだとさ」
「オレに、用だァ?」
 すると題醐さんの眼が、ボクたちを捉える。

「なんだ。ハンバーガー屋に居た、ヤツらじゃねェか」
 ドラムの音が、再び響き始めた。

「チョット、鷹春。話くらい、聞いてやったらどうだい?」
「話なら、聞いたさ。オレを、サッカーチームに入れたいらしい」

「アンタ、サッカーやってたのかい?」
「まあな。昔、少しかじった程度だ」

 題醐さんは言ってるケド、退学する前まではサッカー部に所属してたハズだよね……。

「ところで、アンタらの用件を聞いて無かったね?」
「わたし達、題醐さんをスカウトしに来たんです。ウチのクラブはキーパーが弱点で、題醐さんはスゴイキーパーだと聞いて、それで是非ウチのクラブにと……」

「鷹春が、サッカーをねェ。アイツは先月、いきなりウチのライブハウスに乗り込んで来やがってさ。素性は知らないが、ドラムの腕は確かだから、ウチに置いてやってんのよ。歌は、ド下手だケドね」

 やはり歌は、下手らしい。

 前へ   目次   次へ