仏教高校
向かいにあるライブハウスを見張ろうと入ったハンバーガーショップで、ボクはスカウトターゲットだった題醐 鷹春(だいご たかはる)さんと遭遇する。
「ダーリン、あの人こっちに来るよ!」
隣の椅子に座った、沙鳴ちゃんが言った。
「ア~、そこはいつもオレが座る席なんだが、お前らが退く必要は無いな。別に、予約席でも無いからよ。だが……空くまで、ここで待たせて貰うぜ」
照り焼きバーガーセットが乗ったトレイを持った題醐さんが、ボクたちの席の前で突っ立っている。
「あからさまに、退けと言わんばかりじゃない。まったくモウ……」
負けん気の強い沙鳴ちゃんでも、トレイを持って立ち上がった。
ボクも立ち上がると、2人で隣の席へと移動する。
「オレは、退けとは言って無ェからな。礼は言わないぜ」
題醐さんは真っ赤な髪を手櫛(てぐし)で掻き上げ、真っ黒なヘッドフォンをした。
耳あての左右には、同じ黒の髑髏(どくろ)マークが入っている。
「ねえ、ダーリン。あの題醐 鷹春って人、相当変わってるね」
チーズバーガーを食べながら、沙鳴ちゃんが呆れてる。
「ウ、ウン。倉崎さんから、聞いてた」
「そうなの。倉崎さんって、Zeリーグの試合にも出てるスゴイ人なんでしょ。あの人、スカウトしちゃってダイジョウブなの?」
「たぶん。サッカー界のキーパーって、変わってる人多いから……」
ボクは自分自身を、納得させる台詞を言った。
「でも、ロックシンガーってのはホントなのね。ヘッドフォンで音楽聞きながら、メモ取ってるし」
沙鳴ちゃんが指摘した通り、後ろから見える手帳には、5線譜に音符が並んでいる。
ヘッドフォンからは、シャカシャカと音が漏れていて、他のお客さんも迷惑そうにしてるケド。
「ア、また題醐先輩が居るぜ」
すると背後から、4人の学生集団がトレーを持ってやって来た。
4人とも、白に赤い字で学校名がかかれたジャージを着ている。
でも、土手ですれ違った野球部のモノとは違っていた。
「あの人が、ウチの生活指導と揉めて、退学になった人っスか?」
「イヤ。ヤツは教師のほぼ全員と揉めて、退学になったんだ」
4人は、ボクたちの後ろの席に座る。
「へェ。ウチは仏教系で厳しいから、頭は退学してから染めたんスかね?」
「在学中も、あんな感じだったよ。ウチもかつてはもっと厳しくて、丸坊主が基本だったんだがな。それがマスコミ沙汰になって、周りからの圧力で学校方針も緩くせざるを得なかったらしい」
「ゲゲッ! 今よりキツイって、どんだけだよ」
「オレらが多少は髪を伸ばせるのも、圧力があったからだ」
「ま、野球部に関しちゃ、相変わらず丸坊主だがな」
うわァ、それウチもそう。
どうして野球部って、丸坊主じゃなきゃダメなんだろ?
「よォ、宝城じゃねェか」
いつの間にか、題醐さんが4人の席の前に立っていた。
「人がヘッドフォンしてんのをイイコトに、どうせオレの噂話でもしてたんだろ?」
真っ赤な髪の男の長い腕が、4人のウチの2人に絡み付く。
「うわあ、せ、先パイィ?」
「オ、オレら、先に失礼します!」
2人はハンバーガーとドリンクを持ったまま、店を出て行ってしまった。
「宝城。アイツらのポテト、貰っていいか?」
「まあ構わんだろ。残すのも、勿体ないからな」
残ったウチの1人が、答える。
その人はスキンヘッドで、筋肉質のいかつい身体をしていた。
「題醐。まったく降らない理由で、退学になりやがって……」
「うっせ。それより、残ったヤツらで何とかなりそうか?」
「残念ながら、絶対的守護神の抜けた穴が埋まらん」
「ケッ、情けねェ話だな。それでも、山の背のキャプテンかよ」
文句を言いながら、題醐さんは2人の後輩が居た席に、ドカッと腰を降ろした。
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