ラノベブログDA王

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王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

一千年間引き篭もり男・第09章・12話

シャワーの水滴

 紫色に輝く長い髪を持った、女性的な外装をした漆黒のサブスタンサーが、同じ色の艦の格納庫へと着艦する。

『コリー・アンダーソン中佐、帰還されました』
 艦内に、女性の声のアナウンスが流れた。

「まったく気に喰わないね、あのジイさん」
 サブスタンサーの胸部が開き、中から黒にグリーンのラインの入った宇宙服を着た、グラマラスな女性が姿を現わす。

「群雲 宇宙斗……冷凍睡眠者(コールド・スリーパー)って言ったね」
 女がヘルメットを取ると、エメラルドグリーンの髪が無重力の空間に溢れ出した。
豊満なバストを押し込めた胸元を緩め、通路へと入って行く。

 女は十字路を曲がり、部屋へと入ると着込んでいた宇宙服を脱ぎ捨て、ついでに下着も脱ぎ捨てると、シャワー室へと入った。

「自分が戦う理由を、考えろだ。なに様なんだよ!」
 一糸纏わぬ姿となった女性の肌に、シャワーの水滴が弾ける。

「プロセルピナ、随分と荒れているな」
 シャワー室の外から、男の声が聞こえた。

「プルートかい。女のシャワーを覗くなんて、艦隊司令官のやるコトじゃ無いよ」

「手厳しいな。だが男などは、どんな偉そうな肩書きを持とうが、本性は野獣なのだよ」
 シャワー室のガラス戸が開かれると、湯気の向こうに若い男が立っていた。
男は青みがかった長髪に鉛色の肌をしており、女性の肩に手をかける。

「なんのマネだい、プルート。いや、バルザック・アイン大佐」
 女は、男の手を振り解(ほど)いた。

「オレ達のオリジナルは、夫婦と言うカタチは取らなかったが、オリジナルのキミが死ぬまで添い遂げた。オレたちも、そろそろ関係を持っても構わないだろう?」
 男は、女の髪にアゴを押し付ける。

「ふざけんな!」
 ピシャンと、乾いた音が鳴った。

「コピーだからって、オリジナルと同じ行動をしなくちゃならないなんて制約、無いだろ!」
 女は男の前を通り過ぎると、ラックにかけてあったバスローブで裸体を隠す。

「コリー、悪かった。オレは、キミが好きなんだ。オリジナルどうこうは、この際関係ない」
 頬を抑えながら、謝罪する男。

「いくら関係ないと言ったところで、世間はコピーをオリジナルと比べるんだよ」
「世間など、どうだってイイだろ?」
「良くないわ。なにをしようとも、オリジナルの影が纏わり付く人生なんて!」

 ヒステリックな女性の態度に、男は諦めて、ワインセラーから赤ワインを取り出す。
それを部屋の丸テーブルに置くと、グラスを2つ用意した。

「コリー……キミは、群雲 宇宙斗と接触したのか?」
 グラスにワインを注ぎながら、詰問する男。

「だったら、なに?」
 女は注がれたばかりのワイングラスを取り上げ、一気に飲み干した。

「マーズ様が、言っておられた。群雲 宇宙斗こそが、最も排除せねばならない存在だと」
 男は、グラスの中のワインを揺らす。

「ホントかウソか、知らないけどね。1000年前からの冷凍睡眠者だと、言ってたよ」
「あながち、嘘とも言い切れんぞ。なにせ1度はマーズ様を、死に追いやった男なのだから」

「なんだって?」
「オレたちが、目覚める前の話だよ、プロセルピナ。マーズ様が率いる火星艦隊が、群雲 宇宙斗率いる艦隊に、完膚なきまでに叩きのめされたそうだ」

 男も、ワイングラスを傾けた。

「だったら、放っては置けないよ。アタシ達は、マーズ様によって新たなる十二神(ディー・コンセンテス)に迎えられたのだからね」
 プロセルピナがプルートに、麗しい瞳を向けた。

「オレの艦隊の本来の目的は土星圏だが……方針を変更する。マーズ様の恩義には、報いねばな」

「でも、イイのかい。アンタの、独断て決めちまって?」
「オレはマーズ様から、艦隊の全権を預かっている身だ。それにクーヴァルヴァリアは、火星を火の海に変えた女であって、どの道討たねばならない」


「了解だよ、プルート。アタシも、直ぐに出られる準備をする」
 女は新たな宇宙服に身を包み、部屋を出て行くプロセルピナ。

 男もち続き、部屋には空のワイングラスが2つ、残されていた。

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