ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第09章・02話

マーズの野望

 土星最大の衛星であるタイタンに到着したボクは、サターンさんから太陽系の情勢を探る。

「この土星に、マーズが艦隊を派兵すると言うのは本当ですか?」
 ボクは、土星圏を統括するサターンさんの執務室の、ソファーに座っていた。

「残念ながら、本当のコトだよ。どうやら彼は、本気で太陽系を手に入れる気だ」
 荘厳な机の向こうで、サターンさんが答える。

「土星にも、戦力はあるんじゃ無いのですか?」
 ボクは、より詳細な状況を把握する目的で聞いた。

「タイタンにも、土星圏の主力艦隊が駐留はしているが、火星の艦隊とは規模がまるで違う。それに戦艦というより、どちらかと言えば探査船に近い性質の艦が殆(ほとん)どでね」

「宇宙斗艦長。火星圏や木星圏と違い、土星圏は未開拓の衛星やラグランジュポイントも多いのです。現地調査の目的で創られた艦は、戦闘には不向きでしてね」
 紅茶を飲みながら、土星圏の状況を説明してくれるメルクリウスさん。

「木星圏は、どうなったのです?」
「木星圏を統括するユピテルは、マーズに屈しました」
「……え?」

「木星圏は、イーピゲネイアの叛乱によって多大なダメージを負ってます。特に木星圏を代表する2つの軍事企業が、壊滅的な被害を受けている状態では、致し方ないでしょう」

「グリーク・インフレイム社と、トロイア・クラッシック社ですか……」

 2社が崩壊する姿を、ボクは間近で見て来た。
2つの軍事企業が造った艦艇の多くは、ボク自身の艦隊に組み込まれてしまっている。

「皮肉な話だな、艦長よ。マーズの野郎は、イーピゲネイアの叛乱で弱体化した木星圏を、いとも簡単に手中に収めたってワケだ」
 美宇宙を伴って、プリズナーが執務室に入って来た。

「本当に、厄介なコトになりましたよ。グリーク・インフレイム社と、トロイア・クラッシック社、2つの軍事国家の兵器工場が、マーズの手に堕ちたのです。これからは、火星のマルステクター社の生産ラインだけでは無く、2社のラインでもマーズの艦隊が生産されるコトになります」

 メルクリウスさんが、ティーカップをソーサーの上に乗せながら、ため息を付く。

「ところでアポロさんとは、連絡は取れていないのですか?」
「連絡をして出るようでは、マーズにも簡単に居場所が知られてしまいますからね」
「そうですか……」

 メルクリウスさんは、明確な否定はしなかった。

「そんでよ、優男。火星に派兵される艦隊は、誰が指揮を執るんだ?」
「レムスが、指揮官のようです。副官として、ユピテルが付くらしいですが」

「戦争の神のご子息が、直々に指揮を執るって言うのかよ。まあ、マーズは戦争の神っつっても、負けっ放しの神だがな」

「それは、ギリシャ神話のアレスの話でしょう。確かにアレスは、アテナとの戦争を始め多くの戦いに敗れてます。けれども、アレスと同じ神格と言われるローマ神話のマーズは、そんなに弱い神ではありませんよ」

 メルクリウスさんの言う通り、ギリシャ神話のアレスと、ローマ神話のマルス、マーズとでは扱いがかなり違う。
他の神の扱いがそこまで変わらないのに対し、マーズの扱いはかなり良いモノに変更されていた。

「それでさ、けっきょくのところはどうすんの?」
 無事に入港を許可された、美宇宙が質問する。

「どうするって、オメェ……」
「火星圏に、帰ろう」
 プリズナーの言葉を遮りながら、ボクは言った。

「やはり、そうなりますか」
「はい。ここに居たところで、ボクにはゼーレシオンしか戦力はありません」
 サターンさんに、自身の考えを示すボク。

「解りました。ですが、宇宙斗艦長の乗って来た戦艦プロセルピナは、オーバーホールを終え冥王星圏へと還るコトとなります」

「こんな状況で恐縮ですが、船を提供してはいただけませんか?」

「解りました。宇宙斗艦長には、ご自身の艦に戻り、艦隊を率いていただいた方が、わたしとしても助かります。船を、ご用意致しましょう」
 サターンさんは、快(こころよ)く同意してくれた。

 ボクとプリズナー、それに美宇宙は、提供された小さな宇宙船で火星圏へと向かった。

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