ラノベブログDA王

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王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

一千年間引き篭もり男・第08章・84話

重力下の再会

 ゼーレシオンと、その剣に刺し貫かれたツィツィ・ミーメ。
2機のサブスタンサーは、見えないブラックホールへと急激に引き寄せられていた。

「このままじゃ、ブラックホールに飲まれて消滅してしまうぞ。ミネルヴァさん、聞いてるか!?」
 ボクは、ツィツィ・ミーメの大きなスカートに巻き付いた、ブリューナクの光の球と鎖を消し去る。

 フラガラッハを、ツィツィ・ミーメの胴体から引き抜くと、胸のコックピットハッチを斬り飛ばした。

「今から、そっちへ行く。なんとか2人で、ネメシスの重力から脱出するんだ!」
 ボクは、ゼーレシオンをしっかりとツィツィ・ミーメに固定し、巨人(ゼーレシオン)との1体化(リンク)を解除する。

「宇宙服を着て、宇宙遊泳か。布団の中で引き籠っていた頃のボクなら、絶対にあり得ないと決めつけていた未来だな……」
 氷の要塞(コキュートス)で装備させて貰った宇宙服で、深淵の宇宙へと飛び出すボク。

「ゼーレシオンの方が、1体化していただけあって、遥かに扱い易いな」
 宇宙服の各部にある噴射部から、気体を宇宙に散らしながら、ツィツィ・ミーメのパックリと開いたコックピットに向かって跳んだ。

「ミネルヴァさん……」
 異形のサブスタンサーのコックピット内部は薄暗く、大きな卵状のシートに少女が座っている。

「ボクが、解かるか?」
 コックピットに辿り着くと、ボクはミネルヴァさんとヘルメットを突き合わせた。

 少しピンク色を帯びたヘルメットバイザーの向こうに、時澤 黒乃の顔が見える。
ミネルヴァさんは、地球のラグランジュポイントにあるコロニーで、若き日の少女の姿へと戻っていた。

「元々貴女は、黒乃を大人にしたみたいな女性(ひと)だった。始めて顔を合わせたときは、キミが1000年前の約束を果たしてくれたのだと思ったよ……」

 1000年前の小さな都市の、小さな山にある忘れ去られた鉱山。
その地下深くにある坑道に置かれた、2つの冷凍睡眠カプセルの前で、彼女は確かに言ったんだ。

『どんなに時が流れても、アナタの傍には必ずわたしがいるから』

 ボクは、その言葉を信じて、1000年もの永い眠りに就く。
けれども目を覚ました時、彼女はすでにこの世界には居なかった。

「宇宙斗……」
 ピンク色を帯びたバイザーの中の、少女の唇が小さく動く。

「ミネルヴァさん、ボクが解かるんだな。そうだ、ボクは群雲 宇宙斗だ!」
 地球の、かつて日本と呼ばれた八王子の街での戦闘で、彼女は放射能の雨が降り注ぐ大地に投げ出され、亡くなってしまった。

「解かるわ、宇宙斗。わたしは貴方に、地球の未来を託した」
「そんな重たいモノ、託されたってどうするコトも……それより、帰ろう。キミは、時の魔女になんか操られてはダメな女性だ」

 彼女のクワトロテールが、紫色の光に包まれ、ヘルメットから伸びている。
その1束には、時澤 黒乃の形見である、星のカタチをした髪留めが結ばれていた。

「今、貴方の目の前に居るわたしは、ミネルヴァの残光に過ぎないのよ。生き還ったところで、もはやわたしに役割りは無い。帰る場所なんて無いわ」

「あるじゃないか! キミが愛した、地球だ……」
 ボクの両手が、ミネルヴァさんの両肩を掴んでいる。

「わたしは、地球を愛してなど居ない。ゲーが決定した地球の意志を、太陽系に反映させる為に存在していただけ……」

「だったら、どうして地球をボクに託した。ゲーの命令を聞きつつも、キミは地球を愛し、地球の幸せな未来を望んだんじゃ無かったのか!」
 ミネルヴァさんの肩を握る手に、力が入ってしまった。

 ツィツィ・ミーメとゼーレシオンは、尚もネメシスに向け、加速を続けている。

「地球は、人類にはもはや取り返しのつかない状態になってしまった。何もかもが、遅すぎたのよ」

「そうかも知れない。でも、可能性はゼロじゃ無いハズだ」
「ゼロで無くとも、限りなくゼロに……」

「解ってる。確かに今はそうだ。でも人類は、ボクが1000年もの間眠りこけている間に、火星や月を人類が居住可能な場所へと変えたんだ」

 ボクは、人類が1000年の間に成し遂げた、偉業の数々に敬意を感じていた。

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