ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第71話

バイアス

「黒い、レインコートの男だとォッ!?」
 警部の、1際大きな声が響いた。

「そ、それは、本当ですか、ハリカさん!」
「警部、少し落ち着きなよ」
「こ、こりゃあ、すまねえ」

 声だけの出演である警部が頭を掻(か)く姿を想像し、観客席から笑いが零れる。

「燃え堕ちてしまった邸宅の2階に、わたしの部屋があったのですが、その窓からはお寺の本堂が見えました。その入口に、黒いレインコートを着た男が立っていてのです」

「それは、何時(いつ)頃の話ですか?」
「昨日の朝、まだ朝霧がかかっていた頃でした」

「その人物が、どうして男だと解ったのです?」
「えッ、それは……大柄に見えましたし、勝手に男の人だと思い込んでおりました」
 ハリカが、少し自信無さげに釈明した。

「その人物の顔は、見ましたか?」
「いえ。フードを被っていたし、朝霧で視界もボヤけておりまして」
「ハッキリとは、見ていないのですな」

 舞台のハリカが、コクリと頷(うなず)く。
ここで再び、観客たちに推理する間が与えられた。

「黒いレインコートの人物って、前に土砂降りの雨の日に、メイド長が見たってヤツだろ?」
「その日の深夜に、2件目の殺人が起きたんだよな」
「結局は、何者か解らなかったで終わったてたのに、ここに来て再登場かよ」

「でもやっぱ、確実に怪しいよね」
「まあ十中八九、ソイツがマスターデュラハンだろ」
「でも、ソイツって誰?」

 結局のところ、黒いレインコートの中身については、まだ謎のままだった。

「警部。ハリカさんは、メイド長ホドは小柄じゃない」
「ああ。彼女までもが大柄だと言うので有れば、レインコートの人物は男である可能性が高いな」
「吾輩も、同意だよ。ただし、確定と言うワケでは無いケドね」

「ならば他に、黒いレインコートの男の目撃情報が無かったか探らせよう」
「だけど常識的に考えて、目撃者が居るのであればお寺の周囲だよ」
「解っている。電話を拝借しますので、少々お待ちを」

 警部とマドルは、焼け落ちた寺から離れた、街の宿に居る設定になっている。
警部は火災現場に居る部下に、電話をかけに行ったのだろう。

「さて、警部が戻ってくるまでの間、吾輩も質問をさせていただいて宜しいでしょうか?」
「はい。もちろんです」
 ハリカは、しっかりと頷(うなず)いた。

「黒いレインコートの……男と仮定しますが、お寺にその様な人物が来るコトは?」
「はい。無くはありません。お寺の敷地は、普段は一般の方々にも解放しておりましたから」
「朝霧の中で、早朝にレインコートを来た人物が居ても、不思議では無いと?」

「ランニングのコースや、ラジオ体操で使われる年配の方々もお見えになられます。朝霧が出ていたのであれば、黒いレインコートを着ていてもおかしくはありません」
 今度は、ハリカでは無く母親の声が答える。

「西洋では、バイアスと言いましてね。火事があって、その前に怪しい人物を見たのであれば、その人物をまるで犯人のように疑ってしまう。警察に寄せられる情報も、怪しいのは若い女性より中年男性であり、白い服より黒い服を着た人物が圧倒的に多いのです」

「ではマドルさんは、わたしが目撃した黒いレインコートの男は、犯人では無いと仰るのですか!」
「犯人とは、限らないと言っているんです。ただの、参拝客の可能性もあるでしょう?」
「そ、それは、そうですが……」

「もちろん、犯人の可能性だってあります。だから警察に、動いて貰うコトにしたのです」
 マドルは、ニコリとほほ笑んだ。

「そ、そうですわね。思い込みや決め付けは、禁物なのですね」
「はい。だから他にも、火災の当日に見たコトを教えて欲しいのです」

「わかりました。出来る限り、詳しくお話します」
 舞台のマドルの前で、宣言するハリカ。

「それから吾輩と警部は、ハリカさんや藤美さん、祖母であるタミカさんにも聞き取りを行った。だけど残念ながら、黒いレインコートの男以外に目ぼしい情報は、得られなかったのだよ」

 マドルの行為は1見すると無意味にも思えるが、黒いモノをより黒く浮かび上がらせるには、必須の行為だった。

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