美宇宙(みそら)
「ボクのオリジナルが、キミかァ。なんだか、冴えない顔」
バル・クォーダのコックピットで、もう1人のボクッ娘が言った。
「キミがボクのコピーなら、自分も冴えない顔ってコトになるぞ」
「それなんだよね。けっこう、ショックなんだケド」
もの凄く複雑な答えが、返って来る。
「艦長が冴えない顔ってのは、まあその通りだぜ」
「う、うるさいな。昔から、気にしてるコトを……」
1000年の昔から自覚していた事実だが、だからこそ腹立たしかった。
「ヒドッ! それって、ボクに対する悪口でもあるよね!」
もう1人のボクッ娘も、プリズナーに怒っている。
「ギャハハ、そうなるか。ところでコイツ、名前はどうなるんだ?」
「ボクも、群雲 宇宙斗なんじゃ無いの?」
「流石に同じ名前だと、不都合が生じるな。美宇宙(みそら)で、いいか?」
1000年後の未来に来て、一体何人の少女に名前を付けたのだろうと思いつつ、浮かんだ名前を言ってみた。
「ミソラかァ。ま、イイんじゃない」
名前など気にしていない様子の、ボクのコピー。
「正式には、群雲 美宇宙って名前になんのか。まるで、宇宙斗艦長の妹だな」
「エエッ! ボクが、宇宙斗の妹ォ!?」
「なんでそこは、イヤそうなんだよ」
他愛のない会話をしつつも、ケツァルコアトル・ゼーレシオンとバル・クォーダは、宇宙ドッグ・コキュートスへと向っていた。
「他の天体に影響を与えない、木星クラスの質量を持ったブラックホールねェ」
ボクはプリズナーに、ネメシスと命名した謎のブラックホールの話をする。
けれどもプリズナーは、半信半疑だった。
「観測結果では、準惑星エリスの周りを周っている。つまり、エリスだけは干渉を受けているんだ」
「エリスがネメシスの周りを周るんなら、まだ納得も行くんだがよ。逆なんだろ?」
「まあ……そうなんだが」
「そんなモンが、本当に存在するのか。計器のブレとか、そんなんじゃ……」
納得の行かないプリズナーが、反論を言いかけた時、宇宙に閃光が走った。
「こ、攻撃だッ!」
「何処だ。何処から、撃って来てやがる!」
360度全てに敵が居る可能性のある宇宙で、瞬時の索敵は難しい。
「ほらアソコ、もっとしたの方ッ!」
美宇宙が叫んだ。
「お前、人の視界に割り込んで来るんじゃねェ」
「ボクだって、死にたくはないからね。サポートくらい、してあげるよ」
どうやら美宇宙も、バル・クォーダとコミュニケーションで繋がっているらしい。
「いらねェつってんだろうが。ジャマなんだよ!」
閃光のビームを避けつつ、美宇宙の指示した方向に機体を動かす、プリズナー。
「敵の大軍が……火星を襲ったヤツだな」
ゼーレシオンのカメラも、敵の位置を特定した。
Q・vic(キュー・ビック)と名付けられた四角い立方体の大群が、ボクの脳裏に映る。
「あ、あの機体はッ!?」
Q・vicの群れの前に、1機の巨大なサブスタンサーの姿があった。
「どうしたの、宇宙斗。あの敵が、気になるの?」
「アイツは、セノーテの底に居たヤツじゃねェか!」
プリズナーも、機体の正体に気付く。
「ああ、そうだ。あの機体は、ボクとメルクリウスさんを宇宙の最果てまで飛ばした機体だ」
大型の機体は、赤いドレスを着た女神のような姿をしていた。
顔に口らしきモノがあったが目は無く、白い髪が頭を中心に五芒星のように広がっている。
「ボクとメルクリウスさんは、あの機体をツィツィ・ミーメと名付けたんだ」
細い胴体に不釣り合いな、花びらが幾重(いくえ)にも折り重なったような巨大な赤いスカート。
そこから、肋骨が交差して造られた下半身が、長く伸びていた。
「アステカ神話の、悪鬼の名か」
「世界を破滅させちゃうって言う、女神でしょ?」
バル・クォーダのパイロット2人が、ツィツィ・ミーメの名前の由来を語る。
「そう……そしてツィツィ・ミーメのパイロットは、ミネルヴァさんなんだ」
ボクは再び、彼女と相見(あいまみ)えるコトとなった。
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